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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
55/120

55、王女からの呼び出し






 夜中、静寂の中俺はふと目が覚めた。

 睡魔と現実が入り混じった曖昧あいまいな中、もう一度寝ようと目を閉じかけた瞬間俺はベッドの横から気配を感じ、一瞬で覚醒した。


 ぶわっと冷や汗が噴き出す中、思わず飛び起きて勢いよく横を振り返る。


 「誰!?」


 寝起きの掠れ声で俺が訊ねると、その姿が窓から入る月光の中に浮かび上がる。

 キツイ顔立ち。下ろされてもなお縦巻きを崩さない髪の毛。ネグリジェだけという無防備な恰好。


 そこには、王女が立っていた。


 「お、王女様!?」


 驚愕きょうがくの声を漏らしながら、俺は思わず後退する。


 「な、何の用ですか?」


 警戒しながら問うと、彼女はにぃっと唇の端を吊り上げた。


 「あははははは!」


 不意に王女が甲高い笑い声を上げ、俺はビックリしすぎて心臓が口から転がり出しそうになった。

 唐突にピタリと笑うのを止めると、彼女は微笑みを浮かべて背を向ける。


 その後ろ姿が、暗闇に溶けるように消え、俺は仰天していっそ心臓が止まるかと思った。


 「王女様……?」


 恐る恐る問いかけた声に答える声は、勿論ない。

 その時俺は、彼女が消えたときにドアが開かなかったことを思い出し、一旦止まっていた冷や汗が再び噴き出し始めた。



========================================



 結局あの後、俺は一睡もできずに夜を明かすことになった。

 朝食を摂りながら、いつものように執事さんが予定を上げていく。


 「本日、イツキ様は王女からお呼び出しを受けています」


 呼び出しという単語に、ゴクリと嚥下えんげする音がやけに響いた。

 一瞬で頭の中に、メリアが無礼を働いたことと、その後謝ってもいないのに助けてもらったことが蘇る。


 ヤバい、謝罪もお礼も言ってねぇ……!

 俺は居てもたってもいられず、朝食を食べながらそわそわとした様子を隠せなかった。


 食事を終え、迎えのメイドさんの背に続いて部屋を後にする。

 廊下を歩いていき、今日もまた複雑な道を通っていく。


 やがて一つのドアの前で、メイドさんは足を止めた。


 「姫様、イツキ様をお連れしました」


 「どうぞ」


 メイドさんが声をかけると、中から王女の声が聞こえてくる。

 ドアが開けられ、中に入ると椅子に腰掛けていた王女が振り返った。


 動きやすそうなシンプルなドレスに身を包んだ彼女に、俺は部屋に入って早々直角になるまで勢い良く頭を下げた。


 「先日はメリアが失礼いたしました! そして昨日は助けて頂き、ありがとうございました‼」


 大声で謝罪とお礼を伝えると、王女から驚いたような気配が漂ってくる。


 「い、イツキ様、頭をお上げ下さい」


 慌てたような王女の声に、俺は頭を上げた。

 王女と目が合うと、彼女は微笑んだ。


 「ワタクシ、メリア様に仰られたことは気にしてませんの。ワタクシが性急すぎたのですわ。それに昨日のことですが、むしろこちらが謝罪するべきですの。団の者に情報を伝えていなかったこちらの落ち度ですわ。本当に申し訳ありません」


 立ち上がり、目を伏せて謝る王女に、今度はこちらが慌てる。


 「いえ、そもそも俺が街ではぐれなければよかった話なので。むしろ、混乱させてしまってすみません」


 「いえ。それにしても、イツキ様はメリア様に愛されていますのね」


 唐突に告げられた言葉に、俺は目を白黒させる。


 「あ、愛? な、何でですか?」


 「昨日、イツキ様が行方不明になったと城に報告があったとき、真っ先にメリア様が闘技場に向かったのです。ワタクシはその後ろについていっただけなのですが、本当にイツキ様が中に居て驚きましたわ。きっと愛ゆえの直感ですわね」


 手を組んでうっとりと虚空こくうを見つめる王女に、俺は引き攣った笑みを浮かべる。


 「そ、それはないんじゃないですかねぇ?」


 「そうですか? でも少なくとも、メリア様はイツキ様に好意を抱いていると思いますわよ。ワタクシの直感です!」


 いやいやいや、メリアが俺のこと好いてるとかあり得ないだろう。ライク的な意味でも、ましてやラブなんて絶対あり得ない!

 メリアの冷ややかな眼差しを思い出し、思わず寒気に身体を震わせると、「あら、脱線してしまいましたわ」と取り成すように王女が呟いた。


 「昨晩、リクエラ様からお返事が届きましたの」


 彼女の言葉に、ハッと思い出す。そういえば、リックに俺の核の治療のことを聞いていたんだった。


 「結論から申し上げますと、ワタクシにはリクエラ様達のような治療はできません。ご期待に沿えず申し訳ありません」


 王女の言葉に、一瞬で頭の中が冷える。


 「ただの核の異常、というだけならワタクシにも治せたのですが、イツキ様の核や魔力はあまりにも複雑になっていて手の出しようがありません」


 ドクン、と鼓動が鳴るたびに喉が干上がっていく。


 「ですが、昨日の試験の際、イツキ様が魔法のようなものを使っていたという報告がありました」


 しかし、王女の一言に俺は目を見開いた。


 「もしかしたら、リクエラ様が最後に診たときから何か変化が起きているのかもしれません。一回ラルシャンリ領に戻ってリクエラ様に診ていただいたほうがいいと思いますわ」


 僅かな希望の光が、俺の心に差し込む。


 「その後は、お手紙を通して相談しましょう。ワタクシに言えることは以上ですわ」


 「ありがとうございます。ミュンツェさんに相談してみます」


 王女に感謝を伝え頭を下げる。その時、ふと彼女の背後の机が垣間見え、乳鉢や試験管が散らばった様子がツリーハウスの地下室を彷彿ほうふつさせた。


 「ワタクシからのお話はこれで終わりです」


 「分かりました。あ、」


 彼女に返事をし、不意に昨晩のことを思い出す。


 「あの、王女様。昨日の夜、俺の部屋の中入りましたか?」


 俺が昨晩のことを訊ねると、きょとんとした顔をしていた王女がたちまち真っ赤になっていく。


 「そ、そんな夜に殿方のお部屋の中に入るなんてはしたないこと、ワタクシしていませんわ!」


 「す、すみません!」


 赤くなった顔を押さえる王女に慌てて頭を下げる。

 気まずくなった空気に耐え切れず、俺はドアに足を向けた。


 「えっと、ホント色々失礼しました……」


 「え、ええ」


 ぎくしゃくしたまま俺は部屋を出て、廊下で待機していたメイドさんと一緒に部屋に戻った。







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