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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
51/120

51、ブーイング






 「先手必勝! 食らえ我が奥義!」


 フォルテさんが後ろに下がった瞬間、ウィザーさんが片足を後ろに下げ、右手を腰の近くで構える。


 「必殺、水の魔法!」


 声高々に叫んだウィザーさんは、勢いよく右手を前に突き出した。

 その瞬間、彼の右手からジェットホース並みの勢いで水が噴き出し始める。


 「どうです? どうです? これが私の魔法です! 皆さん見てますか!?」


 「水の魔法って、名前そのまんまじゃねーか」


 「だっせー」


 自慢げに周囲を見回すウィザーさんに、客席からひそひそと囁き声が聞こえてくる。


 「うるさいですね!」


 「ぎゃーっ! つ、冷てっ!」


 気分を害したように右手を振り回す彼の動きにつられて、水流が四方八方に巻き散らかせられる。天井から降り注ぐ水に、客席から悲鳴が上がった。


 「ふんっ、いい気味です。私の魔法はですね、水流の幅を調節することで威力を上げることも下げることもできるのです! どうです? 素晴らしいでしょう!?」


 鼻を高くして魔法をひけらかすウィザーさんに、客席から辟易へきえきしたような雰囲気が流れてくる。


 「あんまり強くて貴方の身体に穴を開けてもいけませんしね。せいぜい貴方が吹っ飛ぶ程度にしましょうかね」


 そう言ったウィザーさんの水流が勢いを増し、端の方でミスト状になった水が白く煙る。


 「それではいっきますよぉー‼」


 興奮して鼻の穴を膨らませた彼の魔法が、俺を狙って放たれた。


 「うわっ!」


 間一髪、地面を右に蹴って避けたものの、倒れ込んだ俺に素早く照準が定められる。


 「無様、無様、無様! そのまま気を失ってしまいなさい!」


 再び発射された水流を転がって躱すが、今度は追撃されて咄嗟に構えた両腕に当たった。


 「ぐっ!」


 左腕がジンと痺れ、俺は大きく弧を描いて端の方まで吹っ飛ばされる。


 「おやおやぁ? 意外としぶといですねぇ。でも、これで終わりです!」


 手をついてうずくまったままの俺に、三度みたび魔法が放たれようとした。

 刹那、俺はぐっと足に力を込めて、勢いよく飛び出した。


 「あらら?」


 ウィザーさんは俺を外し、地面を抉る。

 全速力で駆け出した俺は、出口を目指して逃げ出そうとした。


 瞬間、背中に衝撃が走り、俺はもんどりうって地面に倒れ込む。


 「呆れました。ええ、本当に呆れました。貴方、逃げ出そうとするなんて、何のためにここに来たんです? しかも、敵に背中を見せて逃走するなんて、貴女、お馬鹿さんですか?」


 衝撃に息が詰まり、俺は必死に呼吸をしようと喘ぐ。


 「兄ちゃん男らしくねーぞー!」


 「みっともねー!」


 客席から飛んできた野次が耳に刺さり、ブーイングが鼓膜を揺らす。

 ハッとして客席を振り返ると、一番前に陣取っていた少年の瞳に明らかな失望の色が滲んでいた。


 「いいでしょう、いいでしょう。それなら外に出してあげましょう」


 ウィザーさんが最初と同じように、腰の近くに右手を構える。


 「ただし、敗者という形でね‼」


 高らかに叫んだウィザーさんが、力を込めて右手を突き出した。


 刹那、音が消えた。

 頭の中の秒針だけが、うるさいくらいに聴覚を支配する。


 一秒。ウィザーさんの右手から水が噴き出す。


 二秒。一瞬で伸びた水流が眼前に迫る。


 三秒。


 俺は、静かに右手を突き出した。


 その瞬間、目の前に波紋が広がり、ウィザーさんの魔法が空中で停止した。


 「へ?」


 「え?」


 「「「え?」」」


 ウィザーさんの、ベネの、人々の呆気にとられた声が聞こえる。

 不意に、右手から金色の糸のようなものが幾つも伸びる。


 糸は波紋に手を伸ばすと、魔法を壊そうとするようにきつく絡みつき始めた。


 「くっ!」


 糸と波紋が拮抗し、激しく震える。

 胸の中が熱い。何かが飛び出そうとしているようだ。


 「こ、のぉおおおおおおおおおおっ‼」


 雄叫びを上げ、俺は全ての力を右手に注ぎ込んだ。

 刹那、糸が引き千切れてばらけるのと同時に、ウィザーさんの魔法が掻き消え。


 俺の中で、ビリッと何かが破れる音が聞こえた。


 「私の、私の魔法が消えただと!? 何故だ、ありえないありえないありえないありえない、ありえ―――」

 

 ない、と続けようとしたウィザーさんが白目を剥いてひっくり返る。恐らく魔力切れだろう。


 次の瞬間、俺も地面に倒れ込んだ。


 「か、はっ!」


 胸の奥が鋭い痛みを発し、あまりの痛さに背中が勝手にびくびくと波打つ。

 身体的な痛みではない。レティーさんの魔法からメリアを庇ったときと同じような、それでいて比べ物にならない程の痛みが断続的に襲う。


 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!


 その瞬間、闘技場の扉が外側から開け放たれ、何かが飛び込んできた。


 「イツキ!」


 ……チリン。


 聞き覚えのある声に、鈴の音。

 ふわりと上半身が持ち上がり、視線を巡らせると俺を抱きかかえていたメリアと目が合った。







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