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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
50/120

50、試験






 「よ、傭兵団ようへいだん?」


 「そうそう。あ、ほら、説明が始まるよ」


 ベネが指差した先では、ホールの中央に置かれた檀の上に兵士さんが上がっているところだった。

 騒めいていたホールの中が、波が引くように静かになっていく。


 「お前達、今日はよく集まってくれた」


 その場の視線を集めながら、兵士さんがかぶとを外す。

 兜を小脇に抱えた兵士さんは、短髪に刈り込んだ頭や鼻の上に横断する傷跡から見るからに歴戦の戦士といった雰囲気を漂わせる人だった。


 「俺はクラウン王国傭兵団団長、フォルテ・シュタルクだ。これからお前達には、傭兵団に入るための試験を受けてもらう。俺が名前を上げた者同士で戦闘を行い、先に相手を戦闘不能にした方の勝ち。ただし、殺すなよ。次に勝者同士で戦い、順位をつけ、一位から十位までが団に加入できる。武器はなんでもあり。審判は俺が行う。質問は?」


 フォルテさんが視線を巡らせるが、手を上げる人は誰もいない。


 「説明は以上だ。闘技場に移動するぞ。ついてこい」


 壇から降りたフォルテさんが扉を開け、外に出る。

 今の隙に逃げようと背を向けた瞬間、ガシッと肩を掴まれた。


 「イツキ、どこに行くの?」


 恐る恐る振り返ると、ベネがぐいぐいと俺の肩を引っ張っていた。


 「直前で怖気づくのは分かるけど、城の奥に入っちゃダメだよ。試験も案外平気なもんだって」


 「いや、だから俺は……」


 「大丈夫、大丈夫」


 俺の声に聞く耳を持たず、ベネに引かれるがまま俺は城の外に連れていかれる。

 ふと視線を感じて振り返ると、ピンク色の縦巻きの髪が曲がり角の奥に入っていくのが見えた。


 あれは、アレスティア王女……?

 もしかして、俺に気付いていたら止めてくれるはず。だとすると、俺に気付かなかったのだろうか? あ! それとも、まだメリアとの怒りが冷めていないのか!?


 「ほら、ここが闘技場だよ」


 ベネの声にハッと我に返ると、目の前に半円球の建物が立ちはだかっていた。

 彼に連れていかれるがまま中に入ると、中央にはグラウンドのように整備された地面が広がり、周りを客席が取り囲んでいる。まるでサッカーや野球のスタジアムのようだ。


 「名前を呼ばれなかった者は客席で待っていろ。それでは、これから試験を開始する」


 そう宣言すると、フォルテさんは近くに控えていた兵士さんに兜を預け、羊皮紙を受け取った。


 「第一試合、ジャック対ジェイコブ! 前へ!」


 「僕達は上に行こ」


 フォルテさんに呼ばれた二人が前に進み出て、ベネが隣から囁きかける。


 「あ、ああ」


 「こっちから上がるんだよ」


 ベネの案内に従い、壁際に備え付けられた階段を登って客席に上がる。

 一番前の席を確保したベネは瞳を輝かせて、最初の戦闘を食い入るように見つめた。


 「実は僕、去年も試験を受けに来たんだけど、受からなくってね」


 ベネは戦闘を見つめたまま話し始める。


 「これでも村では一番強かったんだけど、やっぱり試験は厳しいなって痛感したよ。でもね、僕には家族がいっぱいいるから、皆がお腹いっぱい食べられるようにどうしても団に入りたいんだ」


 戦闘が終わり、勝者が雄叫びを上げる。周りから、指笛ゆびぶえ喝采かっさいが飛んだ。


 「だからね、絶対僕は今年の試験に受かってやるんだ!」


 俺と目を合わせたベネは、ニッと強気な笑みを浮かべる。

 しかし、手摺てすりを握る指が微かに震えていることに、俺は気が付いた。


 「ベネ……」


 「あ、次が始まるみたいだよ!」


 強がった少年は、テンションの高い声を出す。

 そうして次々に戦闘が行われ、脱落者は闘技場から出ていき、少しずつ人が少なくなっていった。


 「第八試合、ベネ対セオ! 前へ!」


 「じゃあ、僕は行くね」


 名前を呼ばれたベネが立ち上がり、階段の方へ歩いていく。


 「ベネ!」


 俺が名前を叫ぶと、彼が振り返る。


 「頑張れよ」


 俺が応援を伝えると、少年は一瞬目を見開き、次いで先程と同じような強気な笑みを見せて右手を上げた。


 「おうよ!」


 ベネの試合は、すぐに終わった。

 結果はベネの勝利。流石は村一番だと豪語していただけある。


 「ベネ、おめでとう! すごいじゃんか」


 「まだ、最初の試合だけどね」


 素直に賞賛の言葉を伝えると、ベネは照れたように頭をかいた。


 「第九試合、ウィザー・ストレガー対イツキ・カクシガミ! 前へ!」


 「あ、イツキの番だよ」


 「いや、俺は」


 「まだそんなこと言ってんの? ほら、早く早く」


 ベネに背中を押されるがまま階段を降り、フォルテさんの前に進み出る。

 相手はいかにもインテリ系といった感じのひょろひょろと痩せた男性で、俺と向き合うと「ぬふふふふ」と不気味な笑い声を上げた。


 「いいですねぇ、いいですねぇ。貴方、私の踏み台に丁度いいですねぇ」


 「両者構え!」


 「あの、俺は――」


 腕を振り上げたフォルテさんに、俺は間違いだと説明しようとしたが。


 「始め!」


 容赦なく、彼は腕を振り下ろした。







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