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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
48/120

48、トーリスの武器屋






 ハッと顔を上げると、カウンターに座っていた一人の女性が椅子から降りて近付いてきた。

 艶のある鳶色とびいろの髪は一本の三つ編みに纏められ、きつく結われすぎてぎちぎちになっている。下半身はブーツと作業着っぽい長ズボンという防御力が高めなのに対し、上半身は露出が多く豊かな胸やヘソがチラッと見えていた。


 力仕事をしているのか、がっしりとした肩、薄っすらと筋肉のついた腕や腹は肉体美という感じがする。

 褐色の肌。濃い眉。厚い唇と、顔のパーツは一つ一つのインパクトが強く、凛々しい顔立ちは美しいが、どちらかというと勇ましいと言いたくなった。


 そして、一番驚いたのは身長が物凄く低い。百四十……いや百三十センチ程しかないだろう。


 「やあ、トーリス。久しぶりだね」


 ミュンツェさんが声をかけると、彼女はにやっと口角を上げた。


 「おう、ミュンツェ。頼まれたものは出来てるよ」


 大声という訳ではないのに、芯の通った力のある低い声が部屋の中に響く。


 「ところで、その子はどうしたんだい? まさか、お前さんの隠し子ってわけじゃないだろう?」


 「まさか。彼はイツキ・カクシガミ。訳あって、うちの屋敷で暮らしてるんだ」


 ミュンツェさんに紹介され俺が頭を下げると、彼女は腰に手を当てて仁王立ちした。


 「ようこそ『トーリスの武器屋』へ! 自分は店主のトーリスっていうもんだ。イツキ君は、ドワーフに会うのは初めてかい?」


 「あ、はい」


 トーリスさんの問いに頷くと、彼女は屈託くったくのない笑みを浮かべた。


 「そうか。滅多めったに地下から出てこないから珍しいだろうけど、背丈がちっこいだけでお前さん達とそう変わらねぇよ。これから、よろしくな」


 「よろしくお願いします」


 差し出された手を握り、握手をする。ところで、地下から出てこないというのはどういう意味だろう?


 「それじゃ、早速本題だ」


 手を離したトーリスさんは、カウンターに戻り椅子の上に飛び乗った。


 「まず、氷結塔ひょうけつとうの修理だがジジイ達で問題なく行えるそうだ」


 「そうか、それは良かった」


 トーリスさんの言葉に、ミュンツェさんが胸を撫で下ろす。


 「それで、費用は?」


 「大分ジジイ達にふっかけられたぞ」


 というと、彼女は一呼吸置いてから値段を告げた。


 「金貨200枚だ」


 その額の大きさに、俺はギョッと息を呑む。確か、金貨一枚で屋敷一つ買えるくらいだから、単純に考えて屋敷二百個分か!?


 「分かった。払おう」


 しかし、ミュンツェさんは即座に頷いた。

 流石、領主様は違う……!


 「だが、ここで朗報だ。もう修理費用は貰ってるぞ」


 「え?」


 あっけらかんと言われた言葉に、ミュンツェさんが眉をひそめる。


 「誰からだ?」


 「アレストレイル王からだ」


 トーリスさんの口から告げられた名前に、彼は苦い顔をした。


 「まったく、恩着せがましい……!」


 ミュンツェさんらしからぬ言葉に、俺は思わず二度見した。


 「まあ、良かったじゃないか、ミュンツェ」


 トーリスさんの宥めるような口ぶりに、ミュンツェさんは溜息をつく。


 「そうだね、じゃあせめてこれだけでも受け取ってくれ」


 そう言うと、彼は上着のポケットから小さな小箱を取り出した。

 受け取ったトーリスさんは蓋を開けると、尻上がりの口笛を吹いた。


 「いいのかい、貰っちまって?」


 「ああ、仲介してくれたお礼だ」


 小箱の中には、親指の爪程の大きさの真っ赤な宝石が入っていた。

 カッティングの施された宝石は、光を反射してキラキラと輝いている。


 「じゃあ、遠慮なく」


 と言うと、トーリスさんは宝石をつまみ上げ、突然口の中に放り込んだ。

 「え!?」


 驚きに目を見開いて短く声を零すと、宝石を口に含んだままトーリスさんが振り返った。


 「ああ、イツキ君は知らなかったのか。ドワーフはな、嗜好品しこうひんの一種として宝石を食らうんだ」


 彼女の口がもごもごと動き、宝石が右頬に移動する。


 「自然界の中でも宝石には多くの魔力が含まれている。ドワーフは、宝石の中の魔力を味わうことができるのさ。イツキ君は『ドラゴンティア』って知ってるかい?」


 トーリスさんの質問に、今度は首を振る。


 「そうか。ドラゴンティアとはな、ドラゴンの心臓にある宝石だって言われてるんだ」


 トーリスさんの口の中から、小さく噛み潰すような音が聞こえる。


 「ドワーフの憧れ、伝説の宝石。一体どんな味がするんだろうな?」


 咀嚼そしゃくをしながら、彼女はうっとりとした顔をして虚空こくうを見つめた。

 その宝石を想う恍惚こうこつとした表情に、俺は背筋に寒気が走った。







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