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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
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47、用事






 メリアが王女を怒らせたせいで、メイドさんや執事さん達から冷遇れいぐうされるかと思ったが、流石にそんなことはなく、俺は夜も手厚いもてなしを受けた。

 翌朝、朝食を摂りながら昨日と同じように執事さんが予定を上げていく。


 「本日は、ミュンツェ様からお誘いが来ております」


 「お誘い?」


 俺が聞き返すと、執事さんが軽く頷いた。


 「はい。本日ミュンツェ様はご用事のため街に出られますので、そのお誘いだと伺っております」


 執事さんの言葉に、俺は一瞬逡巡してから頷いた。


 「分かりました。俺も行きます」


 「かしこまりました」


 俺の返事に執事さんが頭を下げ、部屋を出ていく。

 朝食が終わると、昨日と同じようにドアがノックされ案内のメイドさんが入ってきた。


 彼女の後に続き、廊下を歩いていくと大きく開けた空間に出る。

 目の前では巨大な扉が開け放され、外にはミュンツェさんの屋敷の馬車が用意されていた。


 「イツキ」


 不意に背後から名前を呼ばれ、振り返ると執事さんとミュンツェさんが歩いてきていた。


 「おはよう。今日は私の用事に付き合ってくれてありがとう」


 「おはようございます。いえ、俺もやることなかったんで……」


 ミュンツェさんと並んで歩き、連れ立って城の外に出る。

 俺達の姿に、待機していた御者ぎょしゃさんが頭を下げ、兵士さんが胸を叩いた。


 「皆、おはよう。今日はよろしく頼むよ」


 「「ハッ!」」


 ミュンツェさんの挨拶に、威勢よく短い返事が返ってくる。

 執事さんが馬車の扉を開け、ミュンツェさん、俺の順番で乗り込んだ。


 「イツキ、足の調子はどうだい?」


 「あ、もう全然大丈夫です! セバスチャンさんのお陰で、すっかり良くなりました」


 俺の答えに、ミュンツェさんは笑みを浮かべた。


 「そうだろう、あの人の腕は確かだ。彼が治せないものは、この国の誰も治すことが出来ないからね」


 と彼が言ったその時、ガタンッと馬車が揺れ、ゆっくりと進みだした。


 「動き出したね。イツキ、窓の外を見てごらん」


 ミュンツェさんに勧められ、窓の外を見た俺はそっと息を呑んだ。

 白い石畳の道に沿うようにズラッと並んだ建物は煉瓦で出来ていて、村とは雰囲気が一変している。


 道の端を歩く人々は様々な髪色をしていて、中には動物の耳や尻尾が生えている人も見えた。


 「どうだい? これがクラウン王国王都の街並みだよ」


 「なんていうか、すごいですね」


 陳腐ちんぷな言葉でしか表せないが、様々な種族の人々が入り乱れて同じ道を歩いていく様子は、一種の感動さえ覚えた。

 通りの人込みを夢中で眺めていると、「そういえば」というミュンツェさんの声に、意識を引き戻される。


 「アレスティア王女とお嬢さん、喧嘩したんだって?」


 その言葉に、俺は一瞬で血の気が引いた。


 「あ、その、えっと、すみません!」


 どもりながらも、ガバッと勢いよく頭を下げると、頭上からミュンツェさんの慌てた声が聞こえた。


 「ああ、別に叱りたいわけじゃないんだ」


 「え?」


 頭を上げ、聞き返すと、彼の唇が緩やかな弧を描く。


 「事の顛末てんまつはアレスティア王女から聞いたよ。彼女も、色々焦ってるんだろうね」


 斜め下に向けたミュンツェさんの視線は、どこか憂いを帯びていた。

 「あの」と俺が声をかけると、彼は目線を上げる。


 「王妃様は……」


 語尾を濁した俺の問いに、「ああ」とミュンツェさんは頷いた。


 「あの人は―――」


 とミュンツェさんが言いかけた瞬間、ぐいんと馬車が急カーブして停止した。


 「着いたみたいだね」


 外側から扉が開けられ、ミュンツェさんに続いて降りると、馬車は通りから少し入った路地裏に止められていた。


 「イツキ、こっちだよ」


 背中から声をかけられ、振り返るとミュンツェさんと兵士さんが先に進んでいる。

 慌てて後を追うと、二人は更に入り組んだ裏道に入っていった。


 ミュンツェさんと並んで歩いていると、やがて壁の中からぽつんと一つのドアが現れた。

 そのドアが内側から開けられ、中から人が出てくる。


 「おっと」


 手前に居た人影は兵士さんに気付いて端に寄ったものの、その人の後ろに居た人はそのまま前に進んでしまい、上手く俺とすれ違うことが出来ずにぶつかってしまった。


 「悪いね少年」


 「いえ、こちらこそすみません」


 お互いに謝罪し、道を譲り合ってすれ違う。相手は、少し低い女性の声がした。

 二人共グレーのローブを着込み、フードを深く被っている。ローブの中には何かを仕舞っているのか、シルエットが歪になっていた。


 そのローブ姿が、ルーを連れ去ったあのフードの人物を彷彿させ、思わず俺は食い入るように二人の背中を眺めてしまう。


 「イツキ?」


 ミュンツェさんに名前を呼ばれ、ようやく俺は二人から視線を離すことが出来た。


 「何でもないです」


 ミュンツェさんと兵士さんはドアの中へと入っており、兵士さんがドアを開けて待ってくれている。

 中に入ると、真っ先に目に入ってきたのは壁一面にかけられた武器の数々だった。


 剣、斧、槍、弓などなど、様々な武器や防具が所狭しと壁や棚に並べられている。


 「いらっしゃい」


 その鋭い輝きに魅入っていると、部屋の奥から力強い声が聞こえてきた。







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