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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
46/120

46、ティータイム






 「折角せっかくならお天気もいいことですし、中庭でお茶にしません?」


 という王女の一言により、俺達は中庭に出た。

 花壇には様々な種類の薔薇が植えられており、中には薔薇のつるを使って像が作られていたりなんかして、庭師の見る人を楽しませようという心意気こころいきを感じる。


 そして中央には東屋あずまやのような空間があり、お洒落な屋根の下には四人掛けのティーテーブルが置かれていた。

 椅子に座っていると、メイドさん達がワゴンを押してくる。俺が庭をキョロキョロと見回している内に手際よく用意したようで、ハッと気が付けば完璧なティータイムの用意がされていた。


 王女が軽く手を掲げると、メイドさん達がお辞儀をしてどこかへと歩いていく。どうやら人払いをしたようで、セバスチャンさんだけが王女の隣に控えていた。


 「どうぞ、お好きなものをお召し上がりください」


 にこにこと微笑みながら、彼女はポットのようなものを引き寄せる。

 蓋を開けると、中には真っ白な粉末状の物が入っていた。恐らく砂糖だろう。


 彼女はスプーンで砂糖を掬うと、自分のティーカップに入れる。

 一杯、二杯、三杯……五杯目を入れ、ようやく王女は蓋を閉めた。


 どうやら王女様は甘党らしい。見ているだけで胸やけがしそうだ。俺の視線に気が付いた彼女は、ポットに手を添える。


 「お砂糖、要ります?」


 「あ、いや、大丈夫です」


 俺が断ると、王女は「そうですか」と、ポットから手を離し、カップを持ち上げる。

 紅茶を口に含んだ彼女は、小さく咀嚼した。砂糖溶け切ってないじゃん。


 「それで、お聞きしたいこととはですね」


 ソーサーの上にカップを戻し、王女が口火を切った。


 「その……ワタクシ、お父様からイツキ様の核の治療を任せられましたの!」


 一瞬視線を彷徨さまよわせた彼女が、何かを見つけたようにパッと顔を明るくする。


 「ですから、ミュンツェのところでどのような治療をしていたか教えていただきたいのですわ」


 「あ、はい。えっとー……」


 王女の質問に頷き、俺は言い淀む。


 「その、多分俺の核の治療をしてくれてた人の魔法が関わってるんで、俺が言ってもいいのか、ちょっと……」


 他人の魔法を公言していいのか、俺にはまだ判断がつかない。ここは慎重にいったほうがいいだろう。


 「まあ、そうですの。それでは、たかを飛ばしてご本人に確認を取りますわ。その方は、どなたですの?」


 「えっと、リック……リクエラ、ラルシャンリ領の村の村長の娘です」


 王女が「セバスチャン」と呼ぶと、セバスチャンさんが「かしこまりました」と頭を下げる。いきなり王家からの鷹が自分のところに来たら、リックもたまげるだろうな。


 「あ、それと……」


 俺が声を出すと、二人が振り返った。


 「治療はもう一人、レティー……テネレッツァさんの二人でしてくれてたんですけど、テネレッツァさんは今ちょっといなくて……」


 「あら……」


 王女が頬に片手を当てる。


 「……イツキ様、ワタクシもラルシャンリ領で起きた事は耳に挟んでいますの」


 王女の言葉に、俺はバッと顔を上げる。

 目が合った彼女は、にこっと笑った。


 「鷹はリクエラ様にだけ飛ばしますわ」


 「はい……」


 王女の気遣いに、俺はうつむく。誤魔化しなんて、意味なかった。


 「メリア様」


 その時、王女がメリアを呼んだ。


 「その、ワタクシ、メリア様にもお聞きしたいことがあって……」


 言葉を濁した王女が、意を決したように口を開く。


 「メリア様はあのアルストロメリア――ドラゴンなのですか?」


 彼女の言葉に、俺はぎょっと息を呑む。俺達が見つめる中、カップを手に取り一口紅茶を飲み込んだメリアは溜息をついた。


 「仮に、わたくしがドラゴンだとしたら、貴女は何が言いたいのです?」


 王女相手に高飛車に言い放つメリアにハラハラしていると、王女が身を乗り出してカップを下ろしたメリアの手を両手で握り込んだ。


 「お願いがございます! メリア様の血を……『ドラゴンの血』を分けて頂けませんか!?」


 食い気味な王女の様子に、流石のメリアも目を見開く。


 「どんな傷も病の癒えるドラゴンの血。一滴で、一滴でいいんです! ワタクシに出来ることなら何でもしますわ! ですから、どうかメリア様の血をお分けください!」


 「……それを手に入れて、貴女はどうするのです」


 必死にすがる王女に対して、メリアはいっそ冷たいほどに冷静だ。


 「お母様の、王妃の病を治します! 国中の医者が診ましたが、王妃はもう手のほどこしようがありません。もう、残るはドラゴンの血しかないのです!」


 「馬鹿馬鹿しい」


 その瞬間、メリアが王女の手を振り払い、その場の空気が凍りついた。


 「ドラゴンの血は、貴女が扱えるような代物ではありませんわ。それに、王妃に血は必要ないでしょう」


 「な―――ッ!」


 「おい、メリア!」


 淡々と発するメリアの言葉に王女の顔色がみるみる変わり、俺は思わず声を上げる。


 「そんな言い方ありませんわ! お母様には、確かにドラゴンの血が必要です!」


 怒りに目を吊り上げた王女がテーブルを叩きつけて立ち上がり、その勢いにカップの中の紅茶が揺れて零れる。


 「貴女の自己満足にわたくしが付き合う義理はありません」


 スッと静かにメリアが立ち上がり、醒めた目で彼女は告げた。


 「不愉快ですわ」


 「~~~~~~~っ!」


 メリアの一言に、王女が声にならない声を上げる。

 メリアは背を向けて中庭の中を歩いて行った。


 「セバスチャン! メリア様のご案内を‼」


 「かしこまりました」


 王女の指示に、セバスチャンさんが早足でメリアの後を追う。

 不意にパチンッと音がし、見ると王女が指を鳴らしたようだった。


 彼女の合図に、すぐにメイドさん達が集まる。


 「……イツキ様。申し訳ありませんが、今日はここまでとさせて頂きますわ」


 「……はい」


 王女の静かな声が怖い。俺は真っ青になりながら、メイドさんの案内に従って中庭を後にした。







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