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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第二章 幻想の姫君
40/120

40、伝書鷹






 さあ、起きて下さい。

 あの人の手を取って、引き寄せる。


 ダンスを踊りましょう?

 両手を握り、足を踏み出す。


 いち、にー、さん、しっ。いち、にー、さん、しっ。

 二つの足がゆったりとしたステップを刻み、身体がくるりと回る。

 不意に足がもつれ、床に膝をついてしまった。


 ああ、転んでしまった。


 ……転んじゃった。



========================================



 「どう? 分かった?」


 「んー、大体は……?」


 ライトブラウンの瞳の少女の確認の声に、俺は曖昧あいまいに笑う。

 ミュンツェさんの屋敷の自室で、俺はリックから文字について教えてもらっていた。


 あの事件から一週間。いまだゼスやフードの人物、レティーさんや精霊達、そしてルーは見つかっていない。

 ミュンツェさんやリックの怪我はとっくに癒え、コーも順調に回復していると聞いている。


 が、俺の怪我は頭の包帯こそガーゼに変わったものの、足の骨折はあまりかんばしくなかった。

 そもそも骨折というものは、完全に治るまで時間がかかるものだとは知っている。


 しかし、執事長さんを疑う訳ではないが、この世界の治療法が果たして合っているのかという不安と人生初の痛みに、俺は少し焦っていた。

 そんな中、ほぼ毎日欠かさず見舞いに来てくれるリックに、俺はちょっと救われていた部分もあった。


 最初はただ他愛たあいもない話をしていたのだが、段々とネタが尽き、リックが持ってきてくれた本の文字が読めないことが分かると、彼女は次の日から俺に文字を教えてくれるようになった。

 リックはレティーさんの手伝いで文字を覚えたそうだが、村の識字率しきじりつはそこまで高くないらしい。


 それでも彼女は覚えておくと便利だからと、五十音表のようなものまで作ってきてくれた。

 どうやらこの世界の文字は日本語で言うところの平仮名しかないようで、ます記号のような文字を「あいうえお」に当てはめて覚えるのが中々大変だった。


 しかも、それを実際に文章で書いてみると少し崩した流し書きをするから、それを理解するのにも手こずった。


 リックに聞いたところ、「だってその方が早いじゃん」ということらしい。

 つまり、アルファベットの筆記体みたいなものだ。


 俺はまだ書くところまでは至っておらず、ようやくほとんどの文字を読めるようになったところだ。

 その時、廊下からドアがノックされた。


 「はい、どうぞ」


 声をかけると、ドアが開けられ橙色の髪の青年が入ってくる。


 「こんにちは領主様。お邪魔しております」


 「やあ、リック来てたんだね」


 ミュンツェさんは椅子から立ち上がってお辞儀をするリックに、愛想のいい笑みを浮かべた。

 その瞬間、開け放されていたドアからスイッと何かが入り込んできて、机の上に留まる。


 俺とリックはギョッと目を見開いた。


 「鳥?」


 「まさか、これって……!」


 俺達の呟きに、それがクリッと目を動かす。

 大柄な身体。たくましい脚。鋭いくちばしに、閉じた翼。羽は全て薄紫色をしており、つぶらな目は中々賢そうだ。


 「リックの予想通りだ。これは『伝書鷹でんしょだか』だよ」


 「でんしょだか?」


 聞き慣れない単語を、口の中で転がす。


 「ああ、イツキは知らないか。伝書鳩は知っているだろう? それと同じことを鷹がするんだが、伝書鷹の使用は王家のみと定められていてね。その印に羽が紫色に染められているんだ」


 「王家!?」


 ミュンツェさんの説明の中で、一番気になったワードが口をついて出てしまった。


 「そう。それで、この子が持ってきてくれた文書なんだが……」


 彼にしては珍しく顔をしかめた。


 「簡単に言うと、国王からの呼び出しだね」


 ミュンツェさんの言葉に息を呑む。その時、リックが手を上げた。


 「あの、私ここに居てもいいんでしょうか?」


 居心地悪そうに鷹に目線を送る彼女に、ミュンツェさんは頷いてみせる。


 「ああ、村長の娘にも伝えておきたいから、居てくれると助かる」


 その言葉に、リックは浮かしかけていた腰を下ろした。


 「王は、時計塔の崩壊についてと先日の事件に関して直接報告せよと仰せでね。私とお嬢さん、そしてイツキをご指名だ」


 「俺とメリアも!? ですか?」


 俺の声に、ミュンツェさんは苦々しい表情で頷く。


 「ああ、どこから情報が洩れ、何を考えているのかは知らないがね。そこで、リックに頼みたいのはコーのことだ」


 リックは背筋を伸ばした。


 「私達三人が屋敷を空けると、コーは実質一人になってしまう。勿論、執事長達も気を配るだろうが、顔見知りも居た方がいいと思ってね。リックには今までと同じように屋敷に来てもらって、コーと話をしてほしいんだ」


 「分かりました」


 彼女は即座に頷いた。


 「悪いね。明日にはもう出ないといけない。お嬢さんには私から話しておく。急な話で申し訳ないんだが、二人共頼んだよ」


 「「はい」」


 咄嗟に返事をした声が重なり、ミュンツェさんが笑う。


 「リック、そろそろ帰る時間だろ? 屋敷の者に送らせるよ」


 「すみません。ありがとうございます」


 ミュンツェさんとリックが次々に部屋を出ていき、鷹も後を追うように飛び立っていく。

 俺は誰もいなくなった部屋の中で呟いた。


 「……明日?」







このお話から二章に入りましたが、引き続きよろしくお願いいたします!

そして二章から毎日更新目指します!

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