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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
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36、鎌の男






 「なあ……あれって、コーなのか……?」


 「そ、のはず、だけど……」


 俺の問いに、リックの語尾が弱くなる。

 俺達の視線の先では、ルーを担いだままのゼスにコーが襲い掛かっていた。


 彼女はいつものほわほわとした雰囲気とは一変し、烈火れっかのごとく怒り狂っている。


 あれは、本当にコーか?


 コーの手の中で操られる短剣が果敢かかんにゼスを攻め立て、激しい火花を散らした。


 「っつーかさー、そこのお嬢さんは話が違うって言ってるけどぉ、俺様にとっちゃこっちの方が話が違うぜぇ?」


 短剣から繰り出される突きをひょいっと避け、ゼスはレティーさんに向かってニィッと不気味に笑う。


 「ドラゴンを殺す手立てがあるっつーから取引は成立したのに、結果はボロ負け。頼みの綱の大精霊は消えちまった」


 コーの攻撃をかわしながら、彼はハッキリと嘲笑ちょうしょうを浮かべた。


 「つか、大事な大事な復讐ふくしゅうを他人任せにするとか、なっさけねぇと思わねぇのかい?」


 その時、ビキッという幻聴がどこからともなく聞こえた。

 恐る恐る音の聞こえた方に首を巡らせると、シルとサラさんのこめかみに青筋が浮いている。


 「取引は不成立。代わりに土産くらい貰ってってもバチは当たんねぇよなぁ?」


 ビキッと再び聞こえる幻聴。今度はコーのこめかみに青筋が浮いていた。


 「……ふざけるなぁっ‼」


 コーが吼える。その瞬間、彼女の身体を魔力が取り巻いた。

 コーが地を蹴った瞬間、彼女の姿が掻き消えゼスの鎌が跳ね返される。


 刹那くるりと反転した彼が刃を振り下ろすと、背後から襲い掛かっていたコーの短剣が弾かれた。


 「あれは、魔法!?」


 「コーの身体を魔力が包み込んでいる。あの子が魔法を使うなんて、初めて見た……!」


 俺の声に、リックが静かに驚いたような声を上げる。

 コーは身体を落として大地から斬りかかり、跳躍ちょうやくして上空から火花を散らす。残像すら視認できなくなりそうな程の速度で四方八方から攻める彼女の攻撃を、しかしゼスは全て防いでいた。


 「おーおー、ちょこまかとよく動くこと。でもなぁ、いい加減邪魔なんだよ!」


 ゼスが刃を振るう。


 その威力にコーは弾き飛ばされ、背中から地面に突っ込んだ。


 「コー‼」


 「ぐあっ!」


 低く呻き、立ち上がろうとする彼女の腹を、ゼスが踏み付ける。


 「お前さんも貰ってくぜぇ」


 笑みを浮かべ、鎌を振り上げる死神。


 「「やめろぉおおッ‼」」


 俺とリックの口から叫び声が走る。

 刹那せつな、熱風が駆け抜けた。


 「お?」


 ゼスは間抜けな声を出し、素早く飛び退く。

 瞬間、彼のいた地面がえぐれ、炎槍えんそうが突き刺さった。


 「ちょっとアンタ! コー達に何すんのよ‼」


 「うちの双子に手ぇ出しといて、このまま好き勝手させるもんですか」


 青筋を浮かべたシルとサラさんが敵意を剥き出しにし、突き出した手に風刃ふうじん炎槍えんそうを構える。

 その時、馬を置いてミュンツェさんが歩み寄ってきた。


 「死神。領主として君の存在は見過ごせないな」


 いつもの笑みは消え失せ、真剣な面持ちのミュンツェさんが右手を掲げる。

 三人の魔力が立ち昇り、それは風を巻き起こして俺達の髪を揺らす。


 「……返して」


 その瞬間、小さな声が発せられた。

 ゆらりとコーが立ち上がり、俯いた彼女の口がぼそぼそと呟く。


 「……返して……コーはルーと一緒にいないといけないの……コレルは……ルコレといなくちゃ……ルコレ……ルコレ……返して……ルコレを……」


 コーが顔を上げる。その目は、追い詰められたように見開かれていた。


 「ルコレを、返してぇえええええッ‼」


 誰も彼女を止められなかった。コーは絶叫ぜっきょうしながら神速で駆け抜け、今までで一番早い動作で短剣を振り下ろす。


 「……バカの一つ覚えみてぇにルコレ、ルコレってよぉ。そんなにこいつが大事なら」


 それを容易たやすく受け止め、ゼスはささやいた。


 「どうしてお前さんは、こいつの居場所を奪った。えぇ?」


 ゼスの言葉に、コーが愕然がくぜんとした表情を浮かべて固まる。

 次の瞬間、ゼスに蹴り飛ばされたコーが吹っ飛び、薙ぎ倒された木々の間に叩きつけられた。


 「コー‼」


 彼女の名を叫び、ミュンツェさんが駆け寄る。


 「今日のところはコレルの方は諦めるか。引き際が肝心って言うもんな」


 飄々(ひょうひょう)と言い放ち、ゼスは背を向ける。


 「っつーことで、後は頼んだぜ」


 彼の言葉に、いつの間にか姿を消していたコートの人物がふっと現れた。


 「待て!」


 そのまま足を進めようとするゼスに、シルとサラさんが飛び掛かる。


 「しつっけぇなぁ!」


 彼は振り返り、勢いよく足を振り下ろした。

 一瞬魔力が走り、ゼスが踏みしめた大地がクレーターのようにへこむ。


 次いで衝撃が放たれ、身構えた二人が吹き飛ばされた。

 その隙にゼスは跳躍ちょうやくし、その姿が森の中に消える。


 「……サラ、追って!」


 「分かったわ!」


 即座に下されたレティーさんの指示に、サラさんがゼスの後を追う。


 大丈夫だ。サラさんなら、きっとルーを連れて帰ってくるはずだ。


 そう自分に言い聞かせた。刹那せつな


 「……る、う……」


 掠れた声が聞こえた。


 「る、これ……ルコレ……!」


 うわ言のように弟の名を呼ぶコーが、ゼスの消えた方に手を伸ばした。


 「ルコレぇえええええええっ‼」


 座り込み、絶望に目を見開いた少女が追いすがるように絶叫を上げる。

 そのまま立ち上がって追いかねないコーの肩を、ミュンツェさんが押さえつけた。


「コー、落ち着くんだ!」


 ミュンツェさんの腕の中で、コーが狂ったようにもがく。

 俺はミュンツェさんを手伝おうと立ち上がり、俺の後ろをリックがついてくる。メリアはまだレティーさんを睨みつけていた。


 痛みは、とっくに引いていた。

 ミュンツェさんの魔法で出現した壁の前を通ろうとした。その瞬間、今までに感じたことのないような魔力が噴き上がり、俺達は思わず足を止める。


 コートの人物がすっと右手を伸ばす。その包帯に巻かれた指が、俺達の方を向いていることに気付き、心臓が飛び跳ねた。


 「イツキ! リック!」


 シルの叫び声が聞こえる。一瞬魔力が走り、壁の根元からさらさらと砂のような物が流れ落ちた。

 瞬間、壁が俺とリックの方へと傾いた。


 「え?」







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