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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
35/120

35、乱入






 フードを被った頭。分厚いロングコート。


 俺達の前に飛び出してきたのは、村に行った時の帰り道に見かけた、あの怪しい人影だった。


 その場にいた全員の視線を奪った人影は、ゆらりと顔を巡らせる。

 フードに隠れたその視線の先には、大精霊とレティーさんの姿があった。

 レティーさんを庇うように抱き締めた大精霊が、不意にその場にくずおれる。


 「……エメ?」


 一緒に座り込んだレティーさんが声を揺らすと、大精霊は彼女の頬に手を添わせて淡く微笑んだ。


 「ごめんなさい、時間切れですね。魔力も、もう残っていないようです」


 「……もう行っちゃうの? まだ、大事な話が……!」


 大精霊の手を掴み、すがりつくレティーさんに彼女は目を細めて笑いかけた。


 「わたし達は契約で繋がっている。また、いつでも会えます」


 レティーさんの頭にキスをし、大精霊がそっとささやく。


 「あなたに会えて、とても嬉しかった」


 その声が消えた瞬間、彼女の身体が光に包まれ、レティーさんの腕の中で弾けて消えた。

 その時、呆然ぼうぜんと座り込むレティーさんに向かって、コートの人物が足を踏み出した。

 直後、その足元に炎槍えんそうが突き刺さる。


 「ちょっと、あんた、そこから動くんじゃないわよ」


 一瞬でレティーさんの元に駆け付けたサラさんが槍を投げ、シルがレティーさんの前に立ちはだかった。


 「お~、久しぶりだなぁ。えぇ?」


 瞬間どこからともなく、しわがれた声が聞こえ、双子の背後に音もなく人影が降り立つ。


 「っ、おい、後ろ!」


 偶然それを目撃した俺が声を上げると、それは素早く跳躍ちょうやくし、コートの人物の隣に着地した。

 短髪にカットされた髪と鋭い瞳は藍色で、頭からは三角の耳が生えている。ワイルドな風貌ふうぼうの顔には幾つも傷跡が残っており、彼の歴戦を物語っていた。

 靴は履いておらず、裸足はだしで地面を歩いている。彼の腰からは藍色の尻尾が見え隠れしており、右手には鎌のような物を握っている。


 そして、その左腕の中ではルーが抵抗するように暴れていた。


 「ルー‼」


 皆が彼の名を呼び、駆け寄ろうとした瞬間、彼の首に添えられる鎌の刃。


 「おっとー、動かないで~。そこから動いたら~、こいつの首がチョンパされちゃうよー?」


 人質としてルーを捉えられ、俺達は押し黙ってその場に立ち尽くす。


 「……お前、話が違う!」


 その時、レティーさんが声を上げた。


 「……取引は、わたしがドラゴンを殺したら、その死体を受け渡すって話だったはずなのに!」


 「ああ、気ぃ変わったの」


 レティーさんの糾弾きゅうだんに、男はケロッと言い放つ。


 「いっやー、まさかこんなところで、こいつらに会うなんて思ってもみなかったからさー。な! コレル、ルコレ!」


 愛想よく笑いかける男に、双子は顔色を失う。


 「ゼス……!」


 彼の腕の中で呻くようにルーが声を出す。


 「あぁ? ゼス様だろ?」


 その言葉に眉をしかめた男が鎌の柄でルーの腹を突くと、彼は息を詰めガクッと足から力が抜けた。


 「ルー‼」


 「あ? もうくたばった? まあ、この方が手っ取り早いか」


 ぐったりとしな垂れかかるルーを担ぎ上げ、男が顔を上げる。


 「ゼス……? まさか君は、あの死神か!?」


 その時、ミュンツェさんが思い当たったように声を上げた。


 「そうさ、俺様があの有名な死神。暗殺ギルド幹部、死神ゼス様だぜ!」


 得意気に鼻を鳴らし、ゼスが胸を張る。


 「ちょっと! アンタ、ルーをどうするつもりよ! 今すぐ放しなさいよ‼」


 甲高い声で叫ぶシルに、ゼスがルーに目を落とす。


 「ああ、俺様はこいつらにちょっとばかし用があってな。長ぇこと探してたんだが、まっさかこんなところにいたとは、思ってもみなかったぜ」


 刹那、ゼスが鎌をひらめかせ刃が何かを受け止めた。


 「……返して」


 「おーおー、怖ぇ姉ちゃんだ。俺様の話に割り込んできやがるとはよぉ」


 その時、俺達は息を呑んだ。

 一瞬で距離を詰めたコーが、短剣を握ってゼスに斬りかかっていた。


 「……ルーを返してよ」


 距離を取り、俯いた彼女のポンチョの下からもう一振りの短剣が取り出される。


 「返してぇ‼」


 絶叫し、顔を上げたコーのワインレッドの瞳が、くらく爛々(らんらん)と光り輝いた。

 コーが大地を蹴り、次の瞬間ゼスの鎌から火花が散る。


 「その目! あの時と同じだなぁ!!」


 一対の短剣から高速で繰り出すコーの攻撃を、刃を返すことで最小限の動きで跳ね返していたゼスが哄笑こうしょうする。


 「うるさいっ!」


 コーは叫び、勢いよく短剣を振りかぶった。







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