表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
34/120

34、剣






 エルフの少女とドラゴンの少女が睨み合う。

 レティーさんは怒りを露わにし、メリアは背筋が冷たくなるような笑みを浮かべていた。


 不意にレティーさんがよろめき、大精霊が手を伸ばして彼女を支える。


 「魔力切れだ……」


 俺の耳元で、リックが呟いた。

 レティーさんは真っ青な顔をして、呼吸を荒げている。額に玉のような汗を浮かばせ、それでもキッとメリアを睨みつけた。


 「貴女が怒るのは当然のこと。わたくしだけが狙いであれば、甘んじて受け入れようと思いましたわ」


 メリアが口を開く。


 「ですが、貴女はわたくしの『もの』を傷つけた」


 メリアが髪をかき上げる。


 「大人しく相手の言うことを聞くなんて、わたくしらしくありませんでしたわ。もう一度言わせていただきますが、わたくしもそれなりに抵抗させていただきます」


 「いや、言ってること滅茶苦茶じゃね?」


 メリアの言葉に思わず突っ込む。その時、「分からないの?」と耳元から声がした。

 目線を上に上げると、リックが呆れたような顔をして俺を見下ろしている。


 「あの人は、イツキが傷ついたからあんなに怒ってるんだよ」


 「え?」


 メリアが怒っているのは、俺が傷ついたから?

 いや、だって、俺の核が壊れかけてるのは自業自得じごうじとくなんだから、レティーさんには関係ないんじゃ……。


 反射的にメリアの方を見ると、彼女は頭上に右手を伸ばした。

 その瞬間、空間に切れ目が入り、金色の光が漏れ出る。


 メリアは切れ目に手を入れ、中からずるりと何かを引っ張り出した。

 それは、一本の剣だった。


 黄金こがね色に輝く刀身はメリアの身長よりも長く、うっすらと透き通っている。つばや握りには繊細せんさいな彫刻が施されており、見る者に武骨ぶこつさを与えない。

 金髪の少女の華奢きゃしゃな指が黄金の剣を握る。


 その組み合わせはアンバランスでありながら、長年連れ添ってきたパートナーかのように妙にしっくりときた。


 「アルストロメリア」


 その時、大精霊が口を開いた。


 アルストロメリア? それって確か、花の名前だったような……。


 「貴様が剣を抜くなど久しいこと。それほどまでに、その男が大事ですか」


 「さあ? どうでしょう。 ただの気まぐれではありませんこと?」


 大精霊の問いに、しらばっくれるメリア。


 「そうですか。わたしはこの子が愛しい。この子が願うのであれば、わたしは何だってする……」


 大精霊はレティーさんに慈愛じあいに満ちた眼差しを送り、右手を掲げる。

 その手に光が集い、一本の杖を模った。


 その杖は、若木をそのまま引き抜いたような形をしており、青々と茂った葉がゆらゆらと揺れている。


 「この子は貴様の死を望んでいる。ならば、わたしがその命、手に入れましょう」


 大精霊を魔力が取り巻き、彼女の髪が揺れる。

 メリアもまた魔力を高まらせ、そっと剣を構えた。


 「元始げんしの精、エメ」


 「同族殺どうぞくごろし、アルストロメリア」


 互いに名前を名乗った。刹那せつな、大精霊の背後で魔力が固まりを形成する。

 彼女と髪と同じ、白の地に虹色の光を纏った塊が無数に宙に浮かび、ふわふわとうごめく。


 大精霊が杖を振り上げたと同時に、塊が勢いよく発射された。

 メリア目掛けて塊が飛んでくる。避けようとしても避け切れない広範囲の攻撃に、メリアが剣を構える。


 「メリアっ!」


 思わず声を上げた俺の耳に、チリンと涼し気な鈴の音が聞こえた。

 瞬間、剣の切っ先から金色の炎が噴き出した。


 「え、火!?」


 驚いて、目を見開く。


 メリアの魔法は氷ではなかったのか!?


 少女が振り下ろした剣から炎が広がり、塊に喰らいつく。

 飲み込まれた塊が炎の中で消滅し、魔力を巻き散らかした。


 炎は一瞬で全ての塊を喰らい、大気中に濃い魔力が漂う。

 一瞬で交わされた攻防戦に、沈黙が降り注いだ。


 「ふふっ」


 不意に、大精霊が笑い声を上げた。


 「同族殺どうぞくごろし、ね。随分と洒落しゃれた二つ名をつけたこと」


 「……終わらせましょう」


 大精霊の話を切り、メリアが剣を構える。

 二人からとてつもない魔力が発せられる。


 突然俺とリックの周りに赤い炎が走り、炎がドーム型を形作った。


 「あんた達! そこから動くんじゃないわよ!?」


 低い声に顔を上げると、サラさんが俺達に向かって腕を突き出している。

 その直後、メリアと大精霊が同時に武器を動かした。


 放たれる金色の炎、白と虹色の光。

 膨大な魔力を含んだそれが、ぶつかり合う。


 「絶壁ぜっぺきッ‼」


 瞬間、森の方から聞き覚えのある声がしたかと思うと、炎と光の間に魔力が割り込み、一瞬で壁が出現する。

 二人の魔法が壁にぶつかり、魔力が爆発する。


 「うわぁっ!」


 衝撃、暴風。サラさんの結界と森に張られていた結界が、硝子がらすが割れるような音を立てて砕かれた。

 吹き飛ばされそうになった俺達を不意に押さえる手があり、薄目を開けるとメリアが俺達を地面に押さえつけていた。


 大精霊がレティーさんを庇い、サラさんとシルが双子を護っている。

 泉の水面が激しく揺れ、大樹が枝を騒めかせた。


 森の木々が薙ぎ倒され、根が地面を掘り起こす。

 やがて吹き荒れていた強風が治まり、メリアが俺達から手を離して立ち上がった。


 「水を差すなんて、命知らずもいいとこですわ」


 森を振り返り、尖った声を出すメリア。

 その声に、双子の後ろから人影が現れた。


 「いやー、つい咄嗟とっさに止めなくちゃと思ってね。まあ、あんまり意味はなかったようですが」


 そこには、茶色の馬にまたがり髪を乱したミュンツェさんがいた。

 彼の目線の先を追うと、壁は上半分が消し飛ばされ、残った半分も今にも崩れそうな有様になっている。


 その時、大精霊の笑い声が辺り一帯に響き渡った。


 「そう、貴様の力は健在でしたか!」


 口端を吊り上げ、大精霊は声を弾ませる。


 「同族殺どうぞくごろしとはよく言ったものです。その剣で、貴様は仲間の命を奪ったのですね」


 大精霊がメリアの手に握られている剣を指差した。


 「……どういう、こと?」


 大精霊の腕の中にいたレティーさんが、戸惑ったような声を上げる。


 「……仲間がエルフの里を襲い、わたくしはそれを止めようとしました」


 メリアの声が、静かに流れた。


 「ですが、わたくしは……」


 「重っくるしい空気の中悪いんだけどさ~」


 その瞬間、メリアの声を遮るしわがれた声。

 その場の皆が首を巡らす中、木の間から何かが飛び出した。


 「俺様にも都合ってもんがあんのよ。お仕事させてちょーだい」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ