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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
32/120

32、情けない






 目の前で、火の精霊とドラゴンが戦っている。

 凄まじい戦闘だった。森の中で鍛えられたレティーの視力ですら追い付かず、二人の姿はかすんでしまう。


 それでもどうにか目を凝らして見た様子だと、サラが炎の槍で攻め立て、ドラゴンが攻撃を全て避けているようだった。

 傍で見ていると、二人の実力差が浮き彫りになる。


 サラはドラゴンよりも圧倒的に劣っていた。

 それも仕方のない話だ。伝説のドラゴンに、たかが精霊ごときが敵うはずもない。


 それでも戦闘が成り立っているのは、ドラゴンが一回も反撃してこないことと彼女が弱っているからだろう。

 レティーは目を閉じると、そっと静かに魔力を練り上げ始めた。


 エルフには代々受け継がれてきた秘術がある。

 それが召喚術。


 精霊を召喚し、契約を交わすことで彼らを使役しえきするというこの術は、魔力を使いはするものの魔法とは異なる。

 精霊とは自然の力が人格を持った存在である。現実世界とは隔絶かくぜつした精霊独自の世界で暮らしており、本来は現実世界に干渉しない。


 けれど、中には現実世界に遊びに来てしまう変わり者もいる。

 エルフという種族は元々適性が四大属性に偏りがちな傾向がある。加えて彼らの高潔な気質は、精霊という純粋な存在にいたく気に入られた。


 現実世界に来ていた精霊達はエルフと出会い、やがて彼らは世界を繋げた。

 エルフという種族の魔力だけがその世界に繋がることができ、彼らに呼び出された精霊は現実世界に降り立つことができる。


 その際精霊の核は捻じれてしまい、魔法は一瞬しか使えることができない。

 核は精霊が元の世界に戻れば、元通りに治る。しかし、元の世界に帰ってしまえば、数多くの精霊の中から再び同じ精霊が召喚に応じてくれるとは限らない。


 その内に、彼らは契約を交わすようになった。

 精霊とエルフの合意のもと交わされた契約は、精霊が元の世界に戻っても魔力で繋がっており、エルフの求めに応じて召喚されることが可能となる。契約はどちらかが死、または消滅するまで消えることはない。


 レティーはドラゴンに襲われる前に、召喚術自体は両親から教わっていた。

 残念ながら彼らが居なくなってしまう前に成功することはなかったが、秘術は無事に受け継がれた。


 魔力を練り上げ、精霊達の世界と繋ぐ。

 全てを失ったあの日、少女は一つの契約を交わした。


 「……エメ」


 レティーがそっと名前を紡ぐ。

 一人になった彼女に、寄り添ってくれた一人の精霊。


 「……でも、もう手遅れなのよ」


 ぽつりと呟いたシルの声が、かすかに耳に届いた。

 その瞬間、レティーの練り上げた魔力が膨れ上がった。


 サラは時間稼ぎ。シルは足止め。

 彼女の魔力が天を突く。


 同時に森の奥から同じように魔力が立ち昇り、結界を揺さぶった。


 「……来た」


 目を開けたレティーは背を向けると、森の奥へ駆け出す。

 結界の中に入り、更に奥へと足を進め。


 開けた場所に出た瞬間、彼女は顔を歪ませた。


 「……エメ!」


 泉の前にいた精霊が、レティーの声に振り返った。



========================================



 エルフの少女が森の奥へと駆けて行った瞬間、青年の攻撃が一変して追い立てるようなものへ変わった。

 一方向への攻撃に、誘導されていると察したメリアは思い切って背中を向けてレティーの後を追う。


 疾走しっそうするメリアを、サラが追った。



========================================



 レティーさんが森の奥へと駆け、次いでメリアとサラさんの残像がその後を追う。

 三人がいなくなり、シルがほっとしたように風の盾をかき消した。


 「アンタ達は、早くここから離れなさい」


 「シル! まさか、先生は……」


 宙に浮かぼうとした少女の腕を掴み、顔色を失ったリックが問う。


 「……ええ、あの子は大精霊様を召喚したわ」


 頷いたシルに、リックだけでなく双子も息を呑む。


 「え? 大精霊って何?」


 そんな中思わず声を上げると、シルに「空気読めよ」と言わんばかりに睨まれた。


「大精霊は別名、元始げんしの精霊。シル達は四大属性にそれぞれ沿った精霊だけど、大精霊は全ての属性に通じる力を持つ。簡単に言えば、普通の精霊よりも遥かに強い力を持った精霊だよ」


 俺の疑問にリックが説明してくれた。

 シルやサラさんよりも強いって、そりゃヤバいな。


 「シルはレティーについてあげなくちゃいけないの! 放して!」


 声を荒げ、シルはリックの手を振り払って宙を駆ける。

 シルの姿が消え、彼女のいなくなった方向を見つめていた俺は、隣でリックが走り出そうとしていることに気が付き、慌てて彼女の肩を掴んだ。


 「ちょっと、何で止めるのさ!」


 「いや、待て。落ち着けよ」


 「これが落ち着いてなんていられるか! 早く行かないと、先生が死ぬかもしれないんだぞ‼」


 もがくリックの両肩を掴み、真正面から目を合わせる。


 「先生は大精霊を召喚した! いつ魔力切れを起こしてもおかしくない。その前に、止めないと!」


 「でも、俺らが行ったって、何もできないだろ!?」


 俺が怒鳴ると、一瞬怯んだように見えたリックが再び噛みついてきた。


 「じゃあ、さっきの言葉は嘘だったのか!? イツキだって黙って見てるのはいけないって言っていただろ? あれは嘘だったのか!?」


 自分の言葉を逆手にとられ、思わず何も言えなくなった。

 一瞬力が緩み、その瞬間に振り解かれ、彼女は走って行ってしまう。


 彼女を追おうとしたルーが振り返り、立ち尽くす俺に告げた。


 「情けないよー、イツキー」


 その言葉に心をえぐられる。

 コーが俺に向かってお辞儀をし、二人はリックの後を追った。


 「っ、おいっ、待てよ!」


 一人残された俺は、咄嗟とっさに双子を追う。

 彼らの足は速く、あっという間にリックに追いついていた。


 迷うことなく走っていく三人を必死に追いかけ、結界の中に入る。

 虹色の壁を通過した瞬間、屈んでいる三人を見つけ、俺はその後ろにそっと忍び寄った。


 「あー、やっぱりイツキもついてきたー」


 ルーが小声で囁き、にっと笑う。

 振り返って俺を見たリックはご立腹な様子で、フンッと顔を背けた。


 メリアに素っ気ない態度耐性を鍛えられてる俺に、そんな無視は効かねぇんだよ。


 俺は余裕の笑みを浮かべ、彼女達の背中越しに様子を窺う。

 メリアが端の方で構え、シルとサラさんが泉の前で跪いている。大樹をバックに彼女達に跪かれているのは、レティーさんと見たことのない女性だった。







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