表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
31/120

31、見過ごせない






 「森も家も親も友人も、全部燃やされた。レティーは一人になった。シル達は元々レティーの母親と契約してたんだけど、シル達の世界で、ある日急に契約が消えたの」


 俺達に背を向けたまま、シルは淡々と語った。


 「レティーが召喚をした時、シル達が選ばれたのは奇跡みたいなことだった。レティーから里に遭ったことを聞いて、シル達は許せなかった。レティーから全てを奪ったドラゴンが、あの子を一人にしたドラゴンが、許せなかったのっ」


 彼女の肩が震える。声を荒げ、それでもシルは振り返らなかった。


 「だからシル達は自分で核を壊した。捻じ曲がった核を無理やり直して、その反動で割れちゃったけど、でもレティーが治してくれて、シル達はずっと魔法が使えるようになった。シル達の世界には帰れなくなったけど、レティーの傍に居られるなら、それだけでよかったの」


 彼女は俯いて、声を揺らす。

 俺は前にレティーさんに尋ねたことを思い出した。


 『……あれ? じゃあ、シルってなんであんなに魔法を使えるんですか?』


 その答えが今分かった。彼女達は自分で核を壊すことによって、この世界でも継続して魔法を使えるようにしたのだ。


 「そうやってシル達は平和に暮らしてた。あの家に住んで、住人も増えて、あの子は先生って呼ばれて、穏やかに暮らしてたのに!」


 首を振ってシルは叫ぶ。


 「アイツが、ドラゴンが現れた! アイツは平気な顔して森の中に入って、あの家の中に入って! そりゃディーネも怒るよね! でも、アイツは力を失ってたから、また森に入らなければシル達も手を出さないって決めたの。レティーも気付いてなかったし、見なかったことにしようって」


 「でも」と続けた少女の声は震えていた。


 「昨日、レティーはアイツがドラゴンだって気付いちゃったの。レティーはシル達とは比べ物にならないくらいドラゴンを憎んでた。あの子はね、穏やかになんて暮らしてなかったのよ」


 「ねぇ、アンタ達」とシルがようやく振り返った。俺達は思わずびくっと肩を跳ねさせた。


 「あの子が憎しみを露わにしてたとこ、見たことある?」


 顔を歪めて問う彼女に、首を振る。


 「シルは気付けなかった。レティーがずっとドラゴンを憎んでいて、苦しんでいたことに気付けなかった。だから、シルにはあの子を止める資格はないの。あの子を止められる人は誰もいないの」


 そう言ったシルの顔は、酷く悲しそうだった。


 「レティーはアイツを殺すまで止まらない。シル達は、優しいあの子が人を殺すのを止められないのよ」


 顔を戻し、少女は両手を身体の前に掲げる。


 「だから、アンタ達は巻き込まれない内に早く逃げなさい。多分、ミュンツェがもう騒ぎに気付いてこっちに向かってると思うわ」


 そう言ってシルは再び背を向け、風をより集めて盾を作った。

 俺達は沈黙してその場に立ち竦んだ。


 それぞれ何を考えていたのかは分からない。

 俺は、今までのレティーさんの顔を思い浮かべた。


 初めて会った時、本の中に埋もれていたこと。


 俺の持ってきた教科書に瞳を輝かせたこと。


 一緒にお茶を飲んだこと。


 俺の魔力を解いてくれたこと。


 とても優しい眼差しで、微笑んだこと。


 「俺は……」


 あの一瞬一瞬、全てをレティーさんが苦しんでいたとは限らない。

 けど、あの半分閉じた瞼の奥であの人が悲しんでいたのだとしたら。


 それこそ俺達には、レティーさんを止める資格なんてないんじゃないか?

 そう考えた瞬間、左手の小指が燃えるように熱くなった。


 それはまるで俺の考えを叱咤しったするようで、その熱に俺はハッとした。


 「……だからと言って、私は先生が罪を犯すのを黙って見過ごせない」


 その時、俯いていたリックの口が開いた。


 「あの人は、皆が目を逸らした私に手を差し伸べてくれた。先生のお陰で、今の私はあるんだと思う。そんな先生なら、人を殺したら多分ずっと後悔する」


 リックは顔を上げて、振り返ったシルと目を合わせた。


 「先生が後悔をするくらいなら、私は先生を止める! それがあの人の苦しみに気付けなかった私の役目だと思うから!」


 大きな声で宣言したリックに、シルが息を呑む。


 「ルーもリックに賛成だなー」


 「コーもー」


 リックに続いて双子が口々に声を上げた。


 「ルー達が王都にいた時ー、誰もがルー達を無視する中ー、助けてくれたのはレティーさんだけだったんだよねー」


 「他の人みたいに無視すればいいのにー、わざわざコー達を連れ帰ってー、ずっとここにいていいよって言ってくれたのー」


 双子はお互いに顔を見合わせると、二ッと笑った。


 「あんなに優しい人は、人を殺した後も気に病むんだよねー」


 「これ以上苦しんでほしくないならー、一時の気の迷いで人を殺めさせるのは止めるべきだと思うなー」


 「アンタ達……」


 双子の言葉に、シルが瞳を潤ませる。

 感動的なシーンなんだけど、妙に双子の言葉に闇を感じるのは俺だけ?


 「まあ、俺も三人やシル達と比べたらレティーさんとの付き合いは全然短いけど、それでもあの人がすごい優しい人だってことは知ってるし、だから、こう上手く言えないんだけど、あの人がメリアを殺すっていうなら、黙って見てるんじゃいけないと思う」


 たどたどしくつむいだ俺の言葉はシルに届いたようで、彼女は俯いた。


 「……でも、もう手遅れなのよ」


 「え?」


 ぽつりと呟いたシルの声に俺が聞き返した瞬間、メリア達の方から膨大ぼうだいな魔力が膨れ上がった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ