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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
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29、とりあえず落ち着こう






 サラさんが投げた炎の槍とメリアの魔法がぶつかった瞬間、爆風と共に白い煙が生まれる。

 目をすがめると煙の中で赤い光が揺れ動き、何かの残像を浮かび上がらせた。


 影はぼやけているのもあるが、あまりにも高速で動いているものだから目で追えない。


 なんだ、あれ?


 近付こうと一歩踏み出した時、不意に腕を掴まれ俺は飛び上がらんばかりに驚いた。


 「バカ! 死にたいの!?」


 振り返ると、血相を変えたリックが俺の腕を掴んでいた。


 「リック?」


 「いいから、早く離れるよ」


 彼女はぐいと腕を引っ張り、煙の中を迷いなく走っていく。

 そうか。リックの視界は魔力で見ているから、煙が出ていようと関係なく歩けるのか。


 「おー、イツキ捕獲したー?」


 リックが足を緩める。そこには屈んだ体勢で俺達を見上げる双子の姿があった。


 「うん。イツキったらよりによって二人が戦ってるところに行こうとしてた。あと少しで巻き込まれて串刺しになってたよ」


 「俺あぶねぇな!? え、てか、二人が戦ってるって――?」


 リックの口から語られたもう一つの未来にギョッとした俺は、その前に言われた言葉に引っ掛かりを覚え、聞き返す。


 「何でかは分からないんだけどー、今あそこでサラとお嬢様が戦ってんのー」


 「あとー、レティーさんが近くに居ますねー」


 双子の言葉にヒュッと喉の奥が鳴ったような気がした。


 「そうだ、レティーさん! 何でレティーさんは俺達に魔法を……」


 「だからー。分からないって言ってんでしょー?」


 「まあー、狙いはお嬢様だったみたいですけどー」


 俺の声を遮ったルーに、コーが付け足すように言う。


 狙いは、メリアだった?


 その時、何かに気付いたように辺りを見回していたリックが、「あ」と短く声を上げた。

 彼女の声に、視線の先を辿ってみると、煙の奥で薄っすらと見えた人影が、戦いの行われている方へと向かっている。


 その輪郭りんかくは、心なしか鎧を着ているような気がした。


 「あー!」


 「そっちはダメー!」


 「兵士さぁーーーーーん!?」


 「何でイツキもあの人もそっちに行こうとするの!?」


 メリア達の元へ向かおうとしている兵士さんの姿に口々に叫び、俺が駆け出そうとしたその瞬間、突風が吹き荒れ煙を吹き飛ばす。

 クリアになった視界の中、目にも見えない速度で交戦していた二人の前で驚いたように尻餅をついた兵士さんが、慌てたようにきょろきょろと首を振っていた。


 「兵士さーーーん!」


 「早くこっち!」


 「「逃げてー!」」


 俺達が呼びかけると、ハッとしたように振り向いた兵士さんが、四つん這いになって俺達の方へと向かってくる。


 「あばばばば」という効果音を付けたくなるような慌てっぷりで、がしゃがしゃと鎧を鳴らしながら腰が抜けたように高速はいはいで近づいてくる姿は的確に俺のツボに突き刺さり、こんな状況ではないというのに、思わず吹き出してしまった。


 兵士さんは無事に俺達の前まで来ると、起き上がって片膝をつき、真面目くさって敬礼をする。


 「み、皆さまご無事ですか? 自分はご無事です!」


 「うん、とりあえず落ち着こうか!?」


 取り成そうとした兵士さんが見事に空回り、リックがなだめる。


 駄目だ。腹筋がよじれそうだ。


 咳払いで誤魔化そうとしても笑いが込み上げてしまい、にやにやと上がる口角を隠すために、俺は右手で口元を押さえた。


 その時、兵士さんの横に空からふわりと人影が降り立つ。


 「シル!」


 淡緑たんりょく色の髪の少女は顔を上げると、キッと余裕のない表情で俺達を睨みつけた。


 「アンタ達! なんでまだこんなところに居るのよ!? 早く逃げなさい‼」


 シルの叫びに我に返った瞬間、彼女の背後に火の塊が飛んでくる。


 「後ろ!」


 咄嗟に指差した俺の声にシルが振り返り、何かを跳ね除けるような動きをすると、火の塊が風に阻まれて跳ね返された。


 「……お前らドラゴンのせいで」


 不意に、メリアとサラさんの横で二人を見つめていたレティーさんが口を開く。


 「……お前らのせいで、……わたしはっ、エルフは全てを失った! お前らが! 里を、エルフを! 皆殺しにしたんだ‼」


 怒りに燃え上がる眼を吊り上げ、喉を裂かんばかりに絶叫するレティーさんの声が辺り一帯を切り裂いた。


 「え……?」


 その言葉に、思わず俺の口から声が零れ落ちる。


 エルフを、皆殺しにした? ドラゴンが?


 「おい、それって……」


 お互いに顔を見合わせ、俺達は困惑を顔に浮かべる。


 「……昔、レティーが小さかった時」


 その時、背を向けたまま、シルの声が聞こえてきた。


 「あの子が住んでいた里はドラゴンに燃やされたのよ」







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