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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
27/120

27、金糸

今週から【どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい】は、月曜日と木曜日更新となります。

今後とも応援よろしくお願いいたします。






 その少年はあまりにも幸福だった。

 けれども彼は知っていた。この幸福が永遠に続くものではないことを。

 いつか彼は、愛する彼女を遺して逝ってしまうことを。


 だから誓いを交わした。

 彼女の顔も、声も、匂いも、名前も、何一つとして思い出せなくなっても。

 交わした誓いだけは、忘れない。


 我、なんじを愛する者。

 いかなるときも、永遠なる愛を汝に捧げることを誓う。


 我、汝を愛する者。

 いかなるときも、久遠に等しい時間の中で汝のみを愛すると誓う。


 ……チリン。


 鈴の音が、聞こえた。



========================================



 目を覚ますと、窓の外でもう夜が明けようとしていた。


 「……メリア?」


 意識が途切れる前に訪れていた彼女の姿はない。

 ベッドの上から起き上がり、窓辺を開け放つ。


 空は厚い雲が覆っている。風はないが、なんとなく肌が粟立あわだつような嫌な空気が流れていた。


 夢を見た。

 内容は思い出せない。けれど、とても大切な夢だったと思う。


 思い出せそうで思い出せない気持ちの悪い感覚に、頭を掻きむしる。

 ふと熱を感じて左手の小指を見ると、最近見かけていなかった赤い糸が出現していた。


 糸は部屋の中を横断し、ドアの下から廊下に続いている。


 『……呪い』


 不意に、メリアの言葉を思い出した。


 『強欲なドラゴンが、愚かにも結んでしまった呪い。

 赤い糸は互いの血が混ざり合ってできたもの。その糸はどこまでも伸びるが、決して切れることはない。

 互いを縛り付けて離さない……実に愚かな呪いですわ』


 一語一句も忘れずに思い出せたことに驚きながら、俺は呟く。


 「……ドラゴンの呪いって、俺は前世にドラゴンの怒りでも買ったのかねぇ」


 気付けば糸は消えていた。

 レティーさんに呪いのことを聞いてみようか。


 そんなことを考えながら、俺は窓を閉めた。



========================================



 いつものように意識が落ち、レティーさんと白い糸を辿っていく。

 今まで糸玉ができていた所もレティーさんが解いてくれたので、あっちこっちに糸が伸びてこそいるものの、絡まっているものは一つもない。


 それをありがたく思いながら進み、繭玉の元に辿り着いた時、俺達は思わず息を呑んだ。


 「なんだ、これ……」


 あちこちに、金色の糸が張り巡らされている。繭玉自体に金糸きんしは絡みついていないが、それを囲うように幾重いくえも張り巡らされた金糸が、俺達の足を止めた。

 レティーさんが手を伸ばし、金糸に触れる。


 その瞬間、火花が弾け飛んで金糸が一瞬煙り、金色の炎をかたどってレティーさんの手に牙を剥いた。


 「レティーさん!」


 思わず声を上げたが、俺が叫ぶ前にレティーさんは手を引き、後方に飛び退っていた。


 「……この魔力……どうして…………」


 呆然と掌を見つめるレティーさんに声をかける。


 「大丈夫ですか?」


 「……うん。イツキ、一回戻るよ」


 頷いたレティーさんがきびすを返して元来た道を駆け戻っていく。

 俺はその後ろを追い、レティーさんが手を繋いで空中に浮かび上がる。


 意識が浮上し、目を開けた瞬間、レティーさんに両肩を掴まれて、俺はギョッとした。


 「……さっきの魔力、イツキ思い当たる節はない?」


 レティーさんの指が肩に食い込み痛い。俺は顔をゆがませながら必死に記憶を辿る。


 「そういえば昨日メリアが部屋に来て、それから記憶がないけど……」


 「……メリア? それって、ミュンツェと一緒に来た金髪の女の子?」


 レティーさんの問いに頷く。先程からレティーさんの気迫が凄い。

 なんというか、鬼気迫る感じだ。


 「……イツキ、今日はもう帰って。リックも、帰っていいよ」


 ようやく肩を離してもらい、ほっと息をつく。そう思った途端とたん、今度はリックと共に地下室から追い出された。


 「あれー? もう終わったんですかー?」


 一階にいたコーとルーが首を傾げる。


 「うーん、なんか、そうみたい?」


 リックと顔を見合わせていると、階段に腰掛けていたシルが地下室へと降りていき、すぐに戻ってきた。


 「アンタ達、ちょっと外に出ていてくれない? これから結界を張り直すのよ」


 唐突とうとつな言葉に俺達が困惑こんわくしていると、「なんならまた村にでも行ったら?」と言い残して、シルは慌ただしく二階へと上がっていく。


 「だってー。どうする?」


 困ったように眉を下げるルーの肩に、リックが手をかけた。


 「じゃあ、三人共家においでよ。母さんもまた皆に会いたいって言ってたし」


 リックの提案に俺達は乗り、シルの言う通り四人で村に行くことにした。

 外に出ると、扉の前で待機していた兵士さんが俺に向かって敬礼する。


 「今日は随分ずいぶんと早く終わったのですね」


 「ああ、これから結界を張り直すそうです。なので、村に行こうと思ってるんですけど……」


 語尾を口籠り、様子を窺う俺に兵士さんは「そうですか。少々お待ちください」と言い置いて、森の中に入っていく。

 十分ほど待っていると、鎧を鳴らして兵士さんが駆けてきた。


 「馬車は屋敷に帰しました。夕方に村まで迎えに来るそうです。自分はイツキ様に同行いたしますが、ご了承ください」


 兵士さんの気遣いに感謝し、俺達は五人で村に向かった。

 森の中を歩いている最中、リックが思い出したように呟く。


 「そういえば、母さん朝からなんか作ってたな。多分、家に行けばお菓子くらいあると思うよ」


 「えー、ホントー? やったー‼」


 「ルー、少しは遠慮しなよー」


 無邪気に喜ぶルーをなだめるコー。

 不意に俺は昨晩のメリアを思い出し、リックに尋ねる。


 「なあ、もしそれ余ったら持ち帰ってもいいか?」


 「別に構わないけど、領主様にでも差し上げるのかい?」


 聞き返してくるリックに首を振る。


 「いや、屋敷にもう一人いるんだけど、そいつずっと屋敷の中にいるからさ。リックのお母さんのパンケーキ美味かったし、たまには何か持ってってやりたいんだ」


 「あー、それお嬢様でしょー」


 俺達の前を歩いていたルーが振り返り、会話に混ざってきた。


 「お嬢様?」


 「そー。この前イツキと一緒に来たんだけどー、すんごい美人だったよー」


 「ただー、ディーネと物凄い喧嘩しちゃって。それから来てないんだよねー」


 その時、不意にリックが足を止めた。


 「なにこれ……」


 静かに目を見開き絶句ぜっくする彼女のただならぬ様子に、俺達も立ち止まる。


 「どうした?」


 俺が声をかけると、ハッとしたようにリックの虹色の瞳が焦点を取り戻す。


 「この先に、凄い強い結界が張られてる。まだ発動はしていないみたいだけど、こんなに強いもの見たことない」


 「え、この先って……」


 リックの言葉に、俺達は思わず目の前に広がる木々を見つめる。


 「……嫌な予感がする。早く村に行こうよー」


 コーがリックの袖を引き、俺達は慌ててその場から離れようとした。

 その瞬間、背後の草木が騒めき何かが飛び出してきた。


 思わず硬直した俺達の目の前に現れた彼女は、目当てのものを見つけたように目を見開く。


 「イツキ!」


 「メリア!?」


 思ってもみなかった人物に、俺は思わず驚愕きょうがくの声を上げた。


 「誰?」


 「さっき言ってたお嬢様ー」


 俺の隣でリックが振り返り、彼女の耳にルーが囁く。

 その瞬間、ハッと目を見開いたメリアがリックと俺を突き飛ばし、次いで双子がその場に伏せた。


 刹那、リックの頭があった位置を炎が走り、避けたメリアの顔の横を通過して近くの木に突き当たる。

 次の瞬間炎が燃え上がり、樹木から火柱が立ち昇った。


 「うわぁああああ‼」


 突然の熱気に双子が叫ぶ。

 俺は炎が飛んできた方向を見やり、そして言葉を失った。


 炎が飛んできた方向。そこにいた人物は構えていた右手を下ろした。


 「なんで……」


 ルーが呆然と呟く。


 濃い金髪。花の髪飾りと、木のペンダント。


 「……!」


 コーが声にならない声で叫ぶ。


 ピンクのトップスと菖蒲あやめ色のスカート。白のロングジャケットに、亜麻あま色のブーツ。


 「先生……?」


 頭から被った透き通った布が、七色の粒を煌めかせる。


 「レティー、さん?」


 無意識に声が零れ落ちる。


 俺達が見上げる先。


 そこにはいたのは、レティーさんだった。







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