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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
25/120

25、思惑






 その日の夜。ミュンツェさんの好意で俺の自室として使わせてもらっている客室のドアが、来客を告げた。


 「はーい、どうぞ」


 ノックの音に俺が許可を出すと、音もなく扉が開かれる。

 廊下にはいつかの時と同じように、メリアが立っていた。


 「おう、どうした?」


 「少し貴方に伝えたいことが。中に入れていただけません?」


 相変わらずツンとした態度の彼女を迎え入れ、俺はドアを閉じる。


 「なんか、お前とこうやって話すのも久しぶりな気がするな」


 「そうですわね」


 てっきりキツイ言葉で否定されるかと思いきや、あっさりと肯定されて俺は少し驚いた。


 「で、話しって何?」


 ベッドに腰掛けてメリアの顔を見上げると、彼女は俺の隣に腰を下ろした。


 ん? なんで隣に座るの?


 咄嗟とっさに俺が立ち上がろうとすると、後ろからメリアに肩を押さえつけられて俺は浮かしかけた腰をまた戻した。


 「先に謝っておきますわ」


 メリアの声が聞こえると同時に、背中に小さな掌が添えられた感触がした。


 「あ?」


 その瞬間、身体の真ん中を突かれたような衝撃に、俺の視界は暗転した。



========================================



 彼の核を突くと、あっけなく一期は昏倒した。

 くずおれた彼を抱き留め、メリアはベッドの上に一期を転がす。


 あどけない顔で眠る一期の頬にかかっていた髪を払うと、メリアは彼の白いシャツの上から鎖骨の間に指先を添えた。


 「……ごめんなさい。貴方達の努力が泡になってしまいますわね」


 メリアの呟きと同時に、彼女の指先が薄っすらと燐光りんこうを放つ。


 彼女はそのまま目を閉じた。



========================================



 月光が木漏れ日のように、木々の間から降り注ぐ。

 レティーは真夜中にも関わらず森の中を歩いていた。


 昼間、一期達が曲がった獣道の先を歩いていく。


 「今宵は月が見事ですなぁ。おじょーうさん」


 その後ろ姿に、渋くしわがれた声がかかった。

 バッと勢いよく振り返った先には、誰もいない。


 「おやおやぁ? ダメだよ、こんなに隙だらけじゃ」


 耳元に囁かれた声に、レティーは全身が総毛立った。


 「……!」


 咄嗟に叫ぼうとしたレティーの口を塞ぐ手。


 「待った待った。ちょっとでいいからさ、俺様とお喋りしよーぜ?」


 次の瞬間にはレティーは両腕を絡めとられ、身動きを封じられる。


 「それにお嬢さんも興味があるんじゃない? お嬢さんのだーいすきなドラゴンの話」


 掠れた声がその言葉を囁いた瞬間、レティーの肩がピクリと跳ねた。


 「お? お話ししてくれる気になった?」


 レティーの口を塞いでいた手を離し、彼女の首筋を人差し指が撫でる。

 彼女の命を握っていることを示す動きに、無意識にレティーは生唾を飲み込む。


 「……あなたは、何を知っているの?」


 「ん~? そうだねぇ。例えば、お嬢さんがドラゴンを深ーく恨んでいることとか、村の中にドラゴンが一匹紛れ込んでいること、とかかなぁ」


 何気なく呟かれた言葉に、レティーの目は見開かれる。彼女が息を呑んだ音に、男は薄っすらと笑った。


 「あ、興味出た? なぁ、俺様と取引しよーぜ?」


 「……取引?」


 「そ。なぁーに、そう悪い話じゃないさ」


 笑みを含んだ男の声が、月光と共に降り積もる。

 男女の密談を、月だけが聞いていた。



========================================



 「ねぇ、昼間のあいつ憶えてるよねー?」


 毛布の中に潜りこんだルコレが話しかけると、同じ毛布に潜りこんでいたコレルが頷く。


 「うん。ちょっとだけだけど、あそこの奴等と同じ匂いがしてたねー」


 「まさか、ルー達を探しに来たのかなー?」


 ルコレの言葉に、コレルは顔をしかめる。


 「ついに見つかっちゃったかなー。これがある限り逃げ切ることはできないんでしょー?」


 そう言って腕を押さえるコレルに頷き、ルコレは溜息をつく。


 「いざとなったら、ここから離れることも考えなくちゃねー」


 「ヤだなー」と呻くコレルの両手を取り、ルコレはギュッと握り締める。


 「どこに行っても、ルーはコーとずーっと一緒にいるからね」


 無邪気に笑いかけるルコレに頷き、コレルも彼の手を握り返す。


 「うん。コーもルーとずっと一緒だよ」



========================================



 書き物をしていたミュンツェは、羽ペンを置いた。

 伸びをし、立ち上がって窓辺に近づく。


 窓から入ってきていた月光が、その瞬間薄れて暗闇が迫った。


 「……月がかげったか」


 ぽつりと呟き、彼は窓を開け放つ。

 無風状態の外から入ってくる空気が生温い。


 「嫌な空気だ。何も起こらないといいが……」


 ミュンツェの物憂ものうげな声が、夜の中に落ちていった。







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