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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
24/120

24、人影

 





 「イツキ、リックと何話してたのー?」


 リックの家からの帰り道。シルと並んで歩いていた俺に、コーと一緒に前を歩いていたルーが振り返って尋ねてきた。


 「んー? 別に大したことは話してねーよ?」


 「そう。リックの目を腫らしておいて大したことは話してないのね」


 俺の言葉に、シルの冷たい視線が突き刺さる。


 「いや誤解だよ!? 別に俺がリック泣かせたとか、そういうわけじゃないからな!」


 「否定するところが怪しいわ」


 「えー……」


 やけに辛辣しんらつな態度のシルに、思わず俺は何も言えなくなる。

 その時、不意に双子が足を止めた。


 「どうかしたか?」


 「シル、イツキ……あの木の影に居る人、あんまりよくない雰囲気がするー……」


 ルーの囁き声に、何度も頷いて肯定を示すコー。

 俺は思わず双子の言っている木を目で探した。


 前方に続く道の左側。森に入る手前に二、三本の木が並んで生えている。その木々の間の木陰に隠れるように、人影が佇んでいた。


 影に紛れるのは足元まで覆った分厚い黒のロングコート。大きなフードを深く被っていて顔は見えない。コートのそでから覗く掌は木に添えられていて、その手は指先まで白い包帯に巻かれている。

 その不気味な姿からは確かに怪しい雰囲気が漂っていて、不信感があおられた。


 「足を止めないで。三人共顔を伏せなさい。目を合わせちゃ駄目よ」


 シルの指示にすぐさま双子が言われた通りに顔を伏せる。俺も下を向いて双子のブーツを見つめて歩く。

 木々の前を通り過ぎると思った時、チラッと目を上げて人影の様子を窺う。


 俺達が通り過ぎる時、少し強めの風が吹いてフードが少しまくれる。

 露わになった口元は顎から鼻の下まで指先と同じようにキッチリと包帯に巻かれていた。それなのに、俺はその人が笑みを浮かべているということに気が付いた。


 背筋にゾッとしたものが駆け上る。

 咄嗟とっさに目を逸らして俯いて歩いたが、あのフードの奥からの視線にいつまでも付き纏われているような錯覚に冷や汗が滲む。


 俺達は早足で森の中に入っていった。



 =======================================



 風が吹く。


 その人影は歩き去っていった四人の後ろ姿をしばらく見つめていた。


 「―――――見つけた」


 風に掻き消えそうなほど小さな声が、包帯の下から囁かれる。

 幹に添えられていた掌を離し、包帯の巻かれた指先が樹皮を引っ掻く。


 その瞬間、青々と茂っていた葉が急速に色を失い、耐え切れなくなった葉が幾つか舞い落ちる。

 地面に落ちた葉は、朽ちた枯れ葉に成り果てていた。

 人影が樹皮から手を離したと思った刹那、その姿が蝋燭ろうそくの火を吹き消すように掻き消える。


 後には生き生きと枝を揺らす木と、一本だけ朽ちた木が残された。



 =======================================



 「双子は中に戻りなさい。シルはイツキを送っていくわ」


 「「りょーかいー」」


 双子とツリーハウスの前で別れると、不意にシルが俺の腰に抱き着いてきた。


 「え!? 何?」


 「黙ってなさい。舌を噛むわよ」


 シルの思ってもいなかった行動に驚いていると、彼女の警告が耳を掠める。

 その瞬間、ゴウッと耳元に強風が吹いたかと思うと、次の瞬間には俺達は森の上の空に浮かび上がっていた。


 「えぇええええ!?」


 「ちょっと動かないで! 落とすわよ‼」


 思わず叫び声を上げて身動きすると、シルの口から恐ろしい言葉が飛び出してきたので、俺は大人しくされるがままになる。

 シルは俺を抱えたまま空中を滑空し始めた。


 「送るってそういうこと!? 前もって言えよ!」


 「うるさいわね! 別にミュンツェの屋敷までアンタを歩かせてもいいのよ?」


 「すいません、お願いします!」


 シルの声が半ば本気だったので慌てて謝罪を口にすると、彼女は鼻で笑って俺を俵担たわらかつぎに抱えなおす。


 あ、俺荷物扱いされてるわ。


 彼女の細い肩に引っ掛けられながら過ぎ去っていく景色を見つめていると、不意に視界が下降を始めた。

 振り返ると、目の前にミュンツェさんの屋敷の玄関がある。


 「え? もう着いた!?」


 俺が驚愕きょうがくの声を上げると、ふわりと降り立ったシルがペイッと俺を投げ捨てて手をはたく。


 「ちゃんと送り届けたからね。ミュンツェに伝えときなさいよ。それじゃまたね!」


 再び上昇しながら早口で言い残したシルは、慌てた様子で飛び去って行った。

 嵐のように過ぎ去っていったシルを呆然と見つめていると、扉が開かれ中から執事長さんが出迎える。


 「お帰りなさいませ、イツキ様。おや、どうされましたか?」


 尻餅をついたままの俺を怪訝そうに見つめ、手を差し出してくる執事長さん。

 その手を掴み、起こしてもらった俺は思わず苦笑いを浮かべた。


 「いえ、なんでもないです。只今ただいま戻りました」







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