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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
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20、トラブル






 「坊やお味はいかが? ミュンツェの屋敷と比べたらあんまりかもしれないけど、それでも結構いけるでしょ~?」


 俺の正面に座っていたサラさんが左手にお玉を握ったままにこにこと微笑み、尋ねる。


 「いや、めっちゃうまいっすよ」


 巨大キノコの笠にかぶりつき、本心を伝えると「あらやだ、嬉しい!」と赤毛の青年は身をくねらせて喜んでいた。

 円卓えんたくの上には、ハーブと巨大キノコの丸焼きに野菜のポタージュ。丸パンに、果物と質素しっそながらサラさんが腕によりをかけて作った料理の数々が並んでいる。


 ミュンツェさんの屋敷のシェフの料理を繊細せんさいと表現するならば、サラさんの料理は火加減が上手い。キノコ一つにしたって、鼻に抜ける香ばしい匂いはあと数分火にかけてしまったなら黒焦げになっていただろう。


 「サラー、おかわりー!」


 「はーい。リック、坊や。おかわりどう?」


 ルーが差し出した木のスープボウルを受け取りながら、サラさんはもう片方の手を差し出した。


 「あ、じゃあいただきます」


 「私はいいや」


 咄嗟とっさにイエスと答えると、俺のスープボウルが回収される。正直腹は満たされていたが、ポタージュの一杯くらいなら入るだろう。


 「はいはーい。皆育ち盛りなんだから、もっと食べなきゃダメよー。特にレティー!」


 ビシッと指を差されたレティーさんが、ビクッと肩を揺らす。彼女の右手はこっそりとルーの皿に果物を移動させていた。


 「確かにレティーは成長期が終わっているかもしれないけど、女の子はちゃーんと食べなきゃダメよ~」


 そう言ってサラさんは、ルーの皿からレティーさんの皿にひょいひょいっと果物を移してしまう。レティーさんは渋々といった風に果物を口に運んだ。

 ルーと俺にスープボウルを渡すと、サラさんは空っぽになった鍋を持って二階に上がっていく。口調といい言動といい、まるで母親だ。


 夕食を終えると、重ねた食器は双子が二階に運んでいき、残ったレティーさんとサラさん、そして上から降りてきたシルの三人で俺とリックの寝る部屋について相談していた。


 「いつもリックって地下室で寝ていたわよね。今日もそっちに行ってもらったら?」


 「それだとリックはいいにしても、坊やはどうするのよ~。まさか二人一緒に寝るわけにもいかないし」


 「二人一緒っていったら、双子って一緒に寝ていたよね。どっちかそっちに行ってもらう?」


 「一部屋に三人? そんなの狭いじゃなーい」


 「じゃあどうすんのよ!」


 シルの提案をサラさんが却下する。その時、すっとレティーさんが手を上げた。


 「……わたしの部屋にリックが来るといいよ」


 「え!」


 「ああ、それいいわね。リックもそれでいい?」


 「先生が構わないのなら大丈夫です」


 俺が呆気に取られている間に、話がどんどん決まっていく。


 待て待て、リックとレティーさんが同室って大丈夫なのか?


 いや、レティーさんってエルフだよな。ということは、案外見た目よりも年上なのか。だとすると、リックのことは子供くらいにしか思ってないのかもしれない。


 考え込む俺の肩に、大きな掌が乗った。


 「坊や、もしかしてレティーと一緒の部屋で寝たかった?」


 振り返ると、にやにやと目元を笑わせながらサラさんが声を潜ませる。


 「なっ、違いますよ!」


 反射的に否定すると思ったよりも声が大きくなってしまい、三人が不思議そうな顔で俺達のことを見ていた。


 「じゃあ、レティーの部屋にリックが寝て、地下室に坊やが寝る。これで決まりね!」


 パンッとサラさんが空気を変えるように手を鳴らし、地下室を指差す。


 「レティー、リック。少しは下片付けておきなさい。シルと坊やは手伝ってあげて。あたしは毛布探してくるわ~」


 「「……えー」」


 「文句言わないの! さあさっさとお行きなさい」


 嫌そうに顔を顰める二人の背中をぐいぐい押し、サラさんは二階に向かう。


 「確かにあの散らかりようはイツキがかわいそうね」


 そう言って真っ先に地下に降りて行ったシルに観念し、二人が階段を降りていき一番後ろから俺が降りていく。

 片付けは俺とリックが机の上を整頓せいとんし、シルがレティーさんの指示で床の上の本を隅っこに重ねていく。油断すると羊皮紙がシルの風で飛んでいきそうになるので、注意が必要だ。


 「まあ、こんだけ片付けば大丈夫でしょ」


 ぐるりと部屋の中を見回したシルが肩を竦める。

 地下室の中は見違えるように整理整頓され、レティーさんの仮眠用だというベッドもちゃんと整えられていた。


 三人が一階に戻り、俺が椅子の上でしばらくぼーっとしていると、しっかりとした足音が聞こえてきてサラさんが降りてきた。


 「あら、やればできるじゃなーい。坊や、毛布持ってきたわよー」


 毛布を綺麗にベッドの上にかけ、サラさんが俺を振り返る。


 「お風呂湧いてるから入っちゃいなさい。お風呂は二階の突き当りにあるから」


 と彼が投げたタオルをキャッチし、促されるまま階段を登って二階まで上がると、二階は幾つかの部屋に分かれているようで右手と左手にドアがある。俺はサラさんに言われた通りに突き当りのドアを一応ノックしてから開ける。

 ドアを開けると、その部屋には床に敷かれたマットと籠しか置かれておらず、もう一つドアがあったので開けてみると、そこには木が組まれた円形の浴槽と風呂桶があり、彷徨さまよっていた湯気が出口をもとめて押し寄せてきた。


 俺は一階風呂場のドアを閉めて脱衣所でいそいそと服を脱ぐと、タオルと共に籠の中に入れてから再び風呂場のドアを開ける。

 壁に出っ張ったところがあり、そこに固形石鹸が一つだけ置かれていたが、これで全身を洗えということなのだろうか。


 桶で湯舟のお湯を汲み、頭から被る。ほんのりと木の香りが移ったお湯に心が安らぐのを感じながら頭を振って水滴を飛ばすと、石鹸を手に取って泡立てる。

 髪を洗い、一回濯いでから顔、身体を洗う。しっかりと泡を洗い流し、排水溝に流れていったのを確認してから(ツリーハウスで二階なのに、しっかりと排水溝がついていた)湯舟に浸かると、強張っていた肩から力が抜けた。


 日本人に生まれたからには俺も風呂は好きなほうで、息をついて肩までつかる。湯加減も丁度良く、全身がしっかり温まりもういいだろうと湯舟から立ち上がる。


 「坊や~、着替えそこに置いといたわよ~」


 「うわああっ」


 その瞬間、バンッと外からドアが開かれ、思わず悲鳴を上げた。

 ドアを開けた張本人であるサラさんはキョトンとした顔で俺の顔を見つめていたが、目線を少し下げると両手で口を押えて甲高い悲鳴を上げた。


 「きゃーーーーーーっ‼」


 いや、押さえるのは目だろ。


 俺は咄嗟に湯舟の中に身体を沈めた。







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