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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
18/120

18、お客さん






 その日は、俺の頬と左指の凍傷とうしょうをレティーさんに治療してもらうと(なんでも彼女は薬草の知識が豊富で、この辺りの医者の役割を担っているそうだ)、ディーネさん達の機嫌きげんを再び損ねないうちに帰れとツリーハウスを追い出され、長時間待っていてくれた御者ぎょしゃさんの操縦でミュンツェさんの屋敷に戻った。


 翌日、仕事があるというミュンツェさんと散々に嫌われていたメリアは屋敷に残り、俺だけが馬車に乗ってツリーハウスへと向かった。

 車内には俺と護衛の兵士の二人だけが乗っている。乗車前に挨拶してくれた声は兜越しでくぐもっていたこともあり、昨日と同じ人なのか分からない。


 移動時間は十分かそこらだったと思うが、魔法についてミュンツェさんが教えてくれた昨日とは打って変わって会話らしい会話もなかった今日は、物凄く長く感じられた。


 「ここからは自分が案内させていただきます」


 馬車を降りてからは兵士さんが先導してくれ、自分の足で歩いているときは先程よりさほど居心地が悪くない。

 一度歩いた道ということもあってか、昨日よりは少し早く辿り着くことが出来た。


 「あれ?」


 ツリーハウス前の開けた空間に出たとき、俺は思わず声を漏らしてしまった。


 昨日の喧嘩でてっきり酷い惨状がそのままになっていると思っていたが、凍り付いていた木々は元通りに戻って風にそよいでおり、えぐれたりミュンツェさんの魔法と思われる崖が出現した大地は綺麗な真っ平に直されている。

 まさか自然に直ったということはないだろう。レティーさん達が一晩で元通りにしてくれたのだろうか。だとしたら申し訳ない。


 その時、ツリーハウスの扉が内側から開かれ、中から双子がひょっこり顔を出した。


 「イツキ来たー」


 「どうかしましたかー?」


 ルーが笑顔を浮かべ、コーが不思議そうに首を傾げる。


 「いや、別に。こんにちは二人共」


 「「こんにちはー」」


 首を振って挨拶をすると、綺麗にハモッた挨拶が返ってきた。

 昨日と同じ様に外で待機するという兵士さんを残して中に入ると、ルーが俺の腕を引き、コーが一足先に地下への階段を降りる。


 「レティーさんレティーさーん。イツキさんが来ましたよー」


 「イツキー。あのねあのね、今日はもう一人お客さんがいるんだよー」


 下にいると思われるレティーさんにコーが伝え、その後ろを歩いていたルーが俺を振り返る。


 「お客さん?」


 俺の怪訝けげんそうな声を聞いたルーが悪戯いたずらっぽい顔で笑うと、爪先が地下室の床をとらえた。

 顔を上げると、音もなく近寄ってきたレティーさんが俺の頬に向かって手を伸ばす。


 「……イツキ、傷はどう?」


 「うおっと、大丈夫です。昨日より全然良くなりました」


 驚きのあまり思わず一歩後ろに下がって、レティーさんの手を避けてしまった。

 俺の頬にはガーゼが、指には包帯が巻かれている。その下の皮膚は薄っすらと水膨れが出来ていたが、昨日レティーさんに貰った軟膏を塗ってあるので大して痛みはない。


 「……そう」


 避けてから「あ、」と思ったが、レティーさんは特に気にしているような素振そぶりはなく、ほっと胸をなで下ろす。

 レティーさんが背中を向けて奥に歩いていったその時、ようやく俺はレティーさんの後ろに隠れていた「お客さん」に気が付いた。


  今まで書き物をしていたのか、手に羽ペンを持ってその人は椅子に座ったまま振り返った。


 耳の下で切り揃えられた髪は明るいライトブラウン。青白い顔や細い首はあまり日に当たっていないことを物語っており、少し不健康そうに見える。

 腕をまくった生成きなりのシャツとスラックスによく似たモスグリーンのズボンは制服じみており、勝手ながら親近感が湧いた。


 椅子から立ち上がったときに見えた足元はローファーっぽい革のブーツで、背丈は猫背ということもあって分かりにくいが、俺より少し低いくらいか。年も恐らく同じくらいだろう。


 「こんにちは、初めまして」


 近づいて来て差し出した手は細くて骨ばっていて、挨拶をする声はアルトともテノールとも言えない絶妙ぜつみょうな音域だ。

 しかし俺は彼の手や声よりも、俺を真っすぐに見つめてくるその瞳に目を奪われた。


 切れ長の目は涼し気で彼のクールな雰囲気を後押ししている。その虹彩は文字通りの虹色で、光の加減でチラチラと動いて見える。まるでCDの裏側のようだが、あれよりももっと自然な色合いで何よりとても綺麗だった。


 俺が目を見つめていたのが不自然だったようで、彼はそっと苦笑を浮かべた。


 「ああ、不気味でしょうこの目。変な病気とかじゃないんで、うつらないので安心してください」


 自虐的じぎゃくてきに笑う彼が、俺は不思議に思った。


 「え? いや、そうじゃなくて、虹色の目なんて初めて見たんで、綺麗な色ですね」


 俺がそう言うと、彼はきょとんとした顔をする。


 「いやいやそんな、よく汚い油みたいって言われるんですよ」


 「ええー、そんなことないですよ」


 謙遜けんそんする彼を否定すると、彼は呆気あっけにとられたような顔をした。


 「……物好きな人ですね」


 「イツキの言う通りだよー。ルーもリックの目好きー」


 「コーも、リックの目綺麗だと思うー」


 ぽつりと呟いた彼の右側からルーが抱き着き、左手をコーが握る。


 「リック?」


 聞き慣れない言葉を反芻はんすうすると、双子に目を落としていた彼が顔を上げた。


 「ああ、私の名前です。リックと申します、以後お見知りおきを」


 「あ、俺はイツキ……カクシガミです。イツキって呼んで下さい」


 お互いに自己紹介をしていると、傍にいたレティーさんが口を開こうとする。

 それを目で制すると、リックはそっと笑みを浮かべた。


 「というか、年も近そうなので敬語やめませんか? ちなみに私は十六です」


 「あ、同い年! 俺も十六歳です……じゃなくて十六歳! よろしくなリック」


 一人称が「私」だからか。どこか俺よりも大人びた印象のリックは、クールな笑みをより深くした。







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