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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
15/120

15、核

『どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい』は、今週から毎週更新に変更させていただきます。

これからも、引き続きよろしくお願いいたします。






 「え……?」


 自分の口から漏れた落胆らくたんした声が、他人事ひとごとのように感じる。

 いや、何を期待していたんだ、隠神かくしがみ一期いつき。ミュンツェさんも言っていただろう。


 『実は魔法が使える人はそう多くない。だから、イツキの魔力が魔法を使うほどまでに至らなくてもがっかりしないんでほしいんだ』と。


 「……でもね、ちゃんと治療をすればイツキも魔法を使えるよ」


 しかし、次の瞬間続けられたレティーさんの言葉に、俺は自分の耳を疑った。


 「は?」


 奈落ならくの底から天界に引き上げられた魚のように目を白黒させていると、レティーさんがそっと微笑んだ。

 その笑顔が、あまりにも穏やかで眼差しが優しくて、俺は微かに息を呑んだ。


 この人は、なんて優しい表情をするのだろう。

 ぼうっとレティーさんに魅入っていると、すぐにレティーさんは通常の眠たげな顔に戻ってしまい、俺は夢から覚めたような気分になった。


 「……そもそも、適性って何か教えるね」


 そう言って、レティーさんは夢見心地な声で話し始めた。


 「……人ってね、自分の『根源こんげん』に『かく』を抱えているの ……核っていうのは魔力の基盤にあたるもので、魔力は核から生まれ核に戻る ……心臓みたいなものだね ……それで、核を見ると大抵の人は、自分がどんな魔法を使えるのか自分で分かるの ……でね、その魔法が四大属性に当てはまるかを調べるのが『適性』を調べるってこと」


 レティーさんは顔の前に、親指を折り曲げた残りの四本の指を立てた。


 「……四大属性っていうのはね、火・水・風・土の自然に基づいた属性のことで、この派生もあるんだけどね。属性に合わない人もいるけど ……で、適正を調べるとその魔法の系統に沿った指導者に教えて貰えるの ……この辺だとうちがそうなんだけど、うちはシル達がいるから四大全部教えられるんだ」


 順繰りに指を折って話すレティーさんは、ちょっと得意そうだ。


 「……で、さっきイツキと根源に潜ったときに核を見たんだけど ……イツキの核はね、自分の魔力で雁字搦がんじがらめになってるの」


 そう言って、レティーさんは空中に人差し指で丸を描いた。


 「……多分だけど、イツキの核は何かの衝撃でじれちゃってるんだと思うの ……今までの人生の中で、死にかけたことない?」


 レティーさんに言われ真っ先に思い当たったのが、着物の人を追いかけてこの世界に来てしまったことだった。確か目が覚めたとき、物凄い耳鳴りに襲われたが。


 「……人はね、死にかけると核が変異するの ……咄嗟に自分を守ろうとしてなんだろうけど、その現象は『調律ちょうりつ』って呼ばれてる ……調律が起こると、その瞬間はすごい魔力が生まれるんだけど、時間が経つと核が割れたり詰まっちゃったりしちゃうの ……そうすると、ちゃんとした魔法が使えない。それどころか、放っておくと一生魔法が使えなくなっちゃうんだ」


 すっとレティーさんが、俺を指差す。


 「……イツキの核は捻じれてて、魔力がそれを治そうとしてくっついちゃってる。それで治るわけじゃないけど、本能的なものだね ……だから、イツキの中をまわってる魔力があんなに少なかったんだと思うの ……魔力を解いて、核を治せばイツキは魔法を使えるよ」


 と、レティーさんはいとも簡単そうに言うが、あんな繭玉状になっている魔力を解くなんて、一体どれほどの時間がかかるのだろう。


 「……大丈夫だよ。そういうのが得意な子がいるから ……今日は出来ないけど、明日からしばらくここに通ってもらうことになると思う ……あれだけ魔力が絡まってるんだもん。核が治ったら、きっとイツキは凄い魔法を使えると思うよ」


 そう言ってまた微笑んでいたレティーさんだったが、ふと思い当たったような顔をした。


 「……そういえば、イツキってちょっと精霊に似てるね ……精霊ってね、本当は違う世界に住んでて、術者が召喚すると力を貸してくれるんだけど ……その時、精霊の核は捻じれちゃってるから、一瞬しか魔法を使えないの ……イツキの核の捻じれ方って、精霊そっくり」


 じっと静かに見つめてくる薄水うすみず色の視線に、俺は背中に冷や汗が滲んでいるのが分かった。


 ……もしかして、俺がこの世界に来たのって召喚扱いなのか? だから核が精霊と同じ捻じれ方をしてるのか?


 「……あれ? じゃあ、シルってなんであんなに魔法を使えるんですか?」


 俺が質問した瞬間、レティーさんが分かりやすく視線を逸らしたのが分かった。


 「……あの子達はまた別だから ……今日はもう出来ることはないから帰って」


 急に冷たくなったレティーさんの態度に戸惑っていると、レティーさんは二階に上がっていってすぐに戻ってくる。

 その後ろに、ミュンツェさんやメリア達が続いて階段を下りてきた。


 「どうだったかい? 随分ずいぶんと時間がかかっていたようだったけれど」


 「……ミュンツェ。イツキ、治療必要だから ……明日から通って」


 様子を尋ねてくるミュンツェさんに、簡潔に伝えるレティーさん。それでも、ミュンツェさんは納得したようだった。


 「ということはー、明日もその次もイツキに会えるんだねー」


 「よろしくお願いしますー」


 俺の前に駆け寄って破顔するルーとコーに、俺は思わず二人の頭を撫でる。

 つい、昔妹にしていて癖で撫でてしまったが、ヤバいと思って慌てて手をどけると二人とも驚いてはいたが嫌がっているような様子はなくてほっとした。


 「ミュンツェ達、そろそろ帰りなさい。日が沈んできてるわ」


 ふわりと降りてドアを開けたシルの後ろでは、夕日が沈みかけていてミュンツェさんの髪と同じ色になっていた。


 げっ、そんなに時間かかったのか。


 ミュンツェさん達に申し訳ないことをしたと思っていると、それに気付いたミュンツェさんが「気にするな」と笑って、俺の頭をぽんぽんと撫でる。


 いや、人に頭撫でられるのってかなり恥ずかしいなあ!


 気恥ずかしさに顔を伏せていると、メリア達が外に出ていたので俺も慌てて外に出る。

 長時間経ったにもかかわらず来た時と同じように待っていてくれた兵士の人が、ミュンツェさん達に敬礼をしていた。


 「それじゃあレティー。明日からイツキを頼むよ」


 「……任せて」


 ミュンツェさんとレティーさんが挨拶を交わしている横で、ルーとコーがぶんぶんと手を振っている。


 「また明日―」


 「さよならー」


 その横では、シルがメリアにべーっと下を出し、メリアが鼻を鳴らしていた。そういえば、何故彼女たちはこんなに仲が悪かったのだろうか?

 俺達が背を向けると、後ろで扉を閉めた気配がした。

 四人で馬車に向かって歩き出そうとした、その瞬間。


 「待ちなさい」


 と、泉声せんせいを思わせる静かな声が空気を揺らし。

 振り返りかけた俺達の足元で、地面が爆発した。






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