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どうやら俺の赤い糸はドラゴンに繋がっているらしい  作者: 小伽華志
第一章 孤独の少女
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13、人間と亜人






 俺が必死に弁解し、どうにか信用を取り戻した(と思われる)後、「こんなところじゃなんだから、上で話しましょ」というシルの言葉で、俺達は上へと戻った。

 一階に着くと円卓の上には先程シルが置いていたバスケットはなくなり、その代わりに焼き菓子と木製のカップが六組用意されていた。


 「……二人は?」


 「今呼ぶわ。アンタ達は座ってなさい」


 レティーさんの問いにシルが答え、二階へと続く階段の上を駆けていく。

 シルに言われた通り円卓の下に仕舞ってあった椅子に腰掛けていると、すぐにパタパタッと軽やかな足音が聞こえてきた。


 「どーんっ!」


 と、突然無邪気な声が頭上から降ってきたかと思えば、階段の上から小さな人影が飛び降りてきた。


 「もー、駄目だよー」


 「こらっ、危ないでしょ!」


 その後ろからおっとりとした声と階段を駆け下りる足音が続き、更に上から叱責しっせきと共にシルが階段を無視して床の上に着地する。


 「あれ? ミュンツェ様がいる」


 「知らない人もいる」


 彼女たちは円卓の方へ目を向けると、ぱちくりと目を瞬かせた。


 年は見た目で見るとシルよりは高く、メリアよりは幼い。中学生くらいの年齢だろうか。

 ゆるやかなウエーブのかかったクリーム色の髪はボブくらいの短さで、毛先がふわふわと揺れている。


 凹凸の少ない身体を覆う臙脂えんじ色のポンチョ。ベージュのショートパンツから覗く細長い脚は少し痩せぎすで、足元をオリーブグリーンのショートブーツが包んでいた。

 丸い輪郭りんかくの顔の中には、低い鼻、ぷっくりとした小さな唇が絶妙に配置されており、くりくりとした丸い黒目勝ちの瞳はワインレッドに色付いている。


 全く同じ容姿、服装が二つ並んだ様はまるでどちらかが鏡と言われても信じてしまいそうになるほどだ。


 「コー、ルー、こんにちは。先程からお邪魔させてもらってるよ」


 ミュンツェさんがひらりと手を振ると、二人はピッタリと揃った動きでお辞儀をした。


 「「こんにちは、ミュンツェ様」」


 同時に喋ると、二人のよく似た声質が微妙に違うことが分かる。


 「ミュンツェ様ー。その方々はどなたですかー?」


 微妙に声の低い方の少女が首を傾げて問いかけた。


 「ああ、彼はイツキ・カクシガミ。彼女の方は、お嬢さんと呼ばせてもらってるよ」


 ミュンツェさんの紹介に俺は軽く会釈をしたが、メリアはそっぽを向いたまま微動だにしない。


 というか、メリアはミュンツェさんに名前を言ってないのか?


 「イツキ様とー、お嬢様ですかー」


 「ルーは弟のルコレと言いまーす」


 「コーはお姉ちゃんのコレルですー」


 少女達はそれぞれルコレ、コレルと名乗った。


 いや、待てよ。


 「弟……?」


 「あ、ルーは男ですよー。胸とか触ってもらったらー、分かると思いますけどー」


 俺の呟きに、一人称がルーの彼女――いや彼は自分の薄い胸の上に手を置いた。

 なんということだろう。まさか、自分の人生においておとこに遭遇するとは思ってもみなかった。


 「呼ぶときはルーとコーでいいですよー。全部呼ぶと紛らわしいのでー」


 「あとあとー、呼び捨てでお願いしまーす」


 どちらも語尾を伸ばす特徴的な話し方をするので、どっちがどっちかいまいち分からないが、声が低い方がルコレで、少し高い方がコレルだろう。


 「分かりました。あ、俺も様付けとかやめてください。呼び捨てでいいんで」


 「りょうかーい」


 「了解しましたー」


 ルーが一気に砕けた口調になった。まあその方が分かりやすいし、別にいっか。


 「そういえば、レティーもちゃんと自己紹介してなかったわね。ついでに今しちゃいなさいよ」


 シルの声に、全員がレティーさんの方を向く。

 焼き菓子を見つめていたレティーさんは、顔を上げると俺の方を向いた。


 「……テネレッツァ。レティーで、いいよ」


 「あ、はい。よろしくお願いします」


 テネレッツァが本名か。確かにレティーの方が呼びやすいな。


 「……あと、わたしエルフだから」


 そう言った次の瞬間、レティーさんが髪をかきあげる。

 彼女の金髪の下にある耳は先っぽが尖っており、俺のそれとは明らかに形状が違った。


 「え、エルフ――?」


 あっさりと告白された事実に動揺が隠せない俺の肩に、誰かの手がのせられる。

 その腕を辿たどると、ミュンツェさんが真剣な顔で俺の目を見つめていた。


 「そのことについては、私が詳しく説明しよう」


 そう言うと、ミュンツェさんは馬車の中と同じように話してくれた。


 「さっき馬車の中で説明しそびれたんだけど、この世界の人には二つの種類があって、それが『人間』と『亜人』なんだ。『人間』というのは例えば私やルーやコーみたいな人のことを言うんだけど、魔力にばらつきがあって、生命力は亜人に比べると格段に弱い。その分繁殖力が強く、世界にいる人の六割以上が人間だと言われているんだ」


 そこまで説明すると、ミュンツェさんはついっとレティーさんに視線を向けた。


 「そして、『亜人』。亜人は人間と比べると治癒力や寿命が長く、その分繁殖力が弱い。そして、皆総じて魔力が高い傾向があるんだ。亜人の中でも色々な人がいて、レティーのような『エルフ』も亜人の一人だね。ただ、エルフはあまり人数が多くないからレティーのことを吹聴してはいけないよ」


 そこまで聞いて、俺はふと疑問に思った。

 シルはさっき精霊だと自分で言っていた。だが、メリアは一体どっちなのだろう。


 「さあさあ、話しが終わったんならお茶にしましょ。双子、注いでくれる?」


 「「はーい」」


 俺の思考はシルの声に遮られた。彼女に指示された二人が木製のティーポットからお茶を注ぐ。

 その手際てぎわは決していいとは言えないが、二人で協力して丁寧にお茶を淹れる様子は微笑ましい。


 「えーと、ミュンツェ様とー、お嬢様とー、イツキでしょー」


 「レティーさんにー、コーとルーでー、今日はシルは要らないのー?」


 ティーカップを次々に置いていきながら、コーがシルの方を振り返る。


 「今日はいいわ」


 と断ると、シルはふわっと上昇し、窓を開け放して窓枠に腰掛けた。


 「じゃあじゃあー、皆さんの分は揃いましたのでー」


 ルーがレティーさんに目配せをすると、彼女はそっと口を開く。


 「……世界の恵みに感謝を捧げ、その命を頂く」


 レティーさんが食前の祈りを捧げると、その後に他の人が続いて祈りを捧げたので俺も慌てて祈りを捧げる。

 すると皆が、次々にカップや木でできたフォークに手を伸ばしたので、俺は「いただきます」と小さく呟いてからカップに口を付けた。

 ふと視線を感じて顔を上げると、双子がじっと俺のことを見つめている。


 「な、なに?」


 「イツキさんって不思議な人ですねー」


 「亜人と人間の違いを知らなかったりー、祈りを捧げたのにもう一回いただきますって言ったり―。一体どこから来たの―?」


 ルーに尋ねられて、俺はドキッとした。

 だからといって、異世界から来ましたと言うべきではないだろう。


 「……さあね、どこだと思う?」


 だから俺はしらばっくれることにした。「えー、どこだろー」と、様々な地名を上げて盛り上がっている二人を眺めていると、視界の端でミュンツェさんが軽く頷きながら笑みを浮かべた。

 その様子を、金と青と緑の瞳が静かに見つめていたことに俺はその時気付かなかった。







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