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突然扉のノックの音が聞こえた。
気配遮断魔法を使っているが、一応近くの家具の陰に隠れる。
「失礼します」
扉の方から聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。
カチャリと音がして、部屋に入ってきたのは―――
「セシル...」
そう、部屋に入ってきたのはセシルだった。長年一緒に過ごしてきた彼女を見違えるはずがない。
「一瞬、レティア様がいるような気がしたのですが...気のせいですよね」
そう言ってセシルは悲しげな顔をしてうつむく。セシルの悲しげな顔なんてめったに見ない。それほど私はセシルに大切にされていたのかもと思うと涙が出てくる。
そして私はフラッとセシルの方に行こうとした。
「待てっ」
オリヴァー様が止めてくるが、今はそんなことよりもセシルに会ってたくさん話すことが私にとって重要なことだった。気配遮断魔法をとこうとした...その時だった
「ふぇ!」
突然、背後から腕が回された。そう、抱き締められたのだ。可愛い女の子ならいきなり抱き締められたら『キャッ!』と言うのが正解だろうけど、私の場合いきなりすぎて『ふぇ!』になった。女子力や可愛らしさなんてものはもとから私にはないのかもしれない。
「なっ何ですか!?」
「彼女のもとへ行き、どうするつもりだった?」
「セシルに会うために...」
「気配遮断魔法を解いてか?」
「え?」
何故そんなことを聞くのかわからなかった。気配遮断魔法を解かなければ、セシルに気付いてもらえないではないか。
「もっと危機感を持て」
そう言われてオリヴァー様が指を指した方向を見る。そこには...
「盗聴魔法...の魔方陣?」
なんと扉近くの壁に盗聴魔法が仕掛けてあった。ちなみに気配遮断魔法をしてたら盗聴魔法には感知されない。
「レティアがいつか戻ってくると思った誰かが仕掛けたのであろう」
「そんな...」
「そして多分彼女はレティアを引き出すためのエサだ」
「っ!」
信じられなかった。まさかセシルがエサだったなんて。それほどまでに私は殺されるべき存在なのだろうか?私は胸が痛くなった。
「セシルは...私を裏切ったの?」
私は涙を浮かべながらオリヴァー様に聞いた。
「さぁな。ただ一つ言えるとしたら、絶対に裏切らない人間なんていないと言うことだ。人は生きていれば1度や2度、必ず誰かを裏切る。そうやって自分の周りを都合よくして生きてきたのだ」
「嘘...嘘よ。だってセシルは何があっても私を裏切らないって...。あれは嘘だったの?家族に裏切られて...まさかセシルまで」
初め、家族に裏切られ、セシルにまで裏切られたとは。私の心は粉々に砕け散った。
「セシルがお前を裏切るどうこうは知らん。ただお前の家族は完全に裏切ったわけではないぞ」
「えっ」
家族は私を裏切ってはいない?私の中でバラバラに崩された心が少し戻った気がした。まさか私を殺そうとしていた家族が実はまだ私の味方だったとは。少しずつ心が元に戻っていく感じがした。
「もう行こう」
「...はい」
私は涙を拭き、部屋を出ようと、セシルの横を通り過ぎた――その時
「レティア様、ここにいるのでしょう。どうかご無事で」
「!!」
セシルには、私たちの姿が見えているのだろうか?いや、そんなことはどうでもいい。セシルはやはり味方だろうと思えたことが嬉しかった。セシルは私を裏切らないだろうと信じていたから尚更嬉しかった。
「早く行くぞ」
「はい」
私たちは部屋を後にした。
夏休みが欲しいです。
(本編とは関係ないひとり言です)