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「っぐっ、あぁぁぁ」
一応防御の魔法を自分にかけておいたが、それでもすべてのダメージをカットできず激痛が体を襲う。体から血がとめどなく流れ、口からも血反吐を吐く。うまく呼吸ができず、ゲホゲホと咳をしながら何とか呼吸を整えようと必死になる。視界はぐるぐるとまわり何を写し出しているかわからない。頭も真っ白になりうまく物事を考えられない。しかし、そんな中でも魔王が動揺し、動きが止まったことは確認出来た。
「レティアさんっっっ!!!」
「っぁ、レ、、、ア?」
攻撃が一旦止み、トウマ君は急いで私に駆け寄る。少し落ち着きを取り戻した私は、ようやくトウマ君も視界に捉えることができた。
「こんな無茶を、セシルさん、応急処置を!」
「すぐに」
トウマ君とセシルは急いで私の応急処置を始めた。痛みと疲れで体をほぼ動かすことができず、視線だけを魔王の方へと向けた。彼はヘタリと座り込みブタクサと何かを呟いているように見える。落ち着いたのだろう。あれだけ不穏なオーラを纏っていたのが、今は何も感じない。傷口を止めたりなどの簡単な処置が済む頃には何とか体を起こすことが出来た。
「死んでは、、、ないよね?」
上体を起こし、魔王の方を見る。座り込んだまま微動だにしない。
「これからどうなさるのですか?」
「とりあえず、落ち着かせることには成功したから次は、、、!?」
待って、重大なことを忘れていた。そうだ、魔王化を解く魔法はキスだ。思い出して急に赤面してしまう。
「!?!?な、何を急に赤面してるんですか!ま、まま、ま、まさか、キ、キスをしようだなんて」
「セシルさん驚きすぎでは」
「ファーストキスはこの私が、、」
ブツクサと文句を言っているセシル。残念、私の恋愛対象は女性ではなく男性なのだ。ファーストキスは大事な人に捧げたい。セシルにはハグで我慢してもらいたい。
こんな茶番をしつつも魔王はまだ座り込んだまま。死んでしまったのかと不安になるが、たまに口が小さく動いているのを見ると死んではなさそうだ。
「二人とも手を貸して」
二人に支えてもらい魔王のすぐそばに近づく。私たちの気配に気がついたのか目の前までくるとゆらりとその頭を上げた。空なガラスを嵌め込んだような瞳。傷だらけだが、少し顔色が良くなったようにも思う。私も目の前で腰を下ろし、座って魔王と向き合った。
「疲れちゃったね。あなたの復讐はもうほぼ終わったよ、大丈夫」
「???………」
「私ね、あなたのことが好きだよ。ずっと昔から。だから、ね、元に戻ってよ。お願いだから」
ポロポロと涙が溢れてくる。どうにかして元に戻ってほしい。人生初めて勇気を振り絞って告白までしたのに。こんな、終わりはない。こんなのあんまりすぎる。
『キスをしたら本当に元に戻るかな』
改めて彼をしっかりと見つめる。さっきと何も変わらない顔。多分記憶にも残らないだろう。顔面疲れたって書いてあるし、きっと傷だらけ、コンディション最悪すぎる。でも何故だろう。今が一番いいだろうと思った。
『受けとれ、私のファーストキス!!!』
ゆっくりと目を瞑り顔を近づけた。




