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「魔王さん、あなたの相手は私よ」


 投げた石は一直線に魔王に向かう。そしてコツリと当たる。リックから注意が逸れた隙にトウマ君が魔王に斬りかかる。当然寸での所でかわされる。が、その攻撃をかわした魔王をまた私が斬りつける。私とトウマ君で魔王の攻撃を受け流している中でセシルがリックを安全な場所へと移動させる。彼の事は恨んでいるし、死んでしまえとも思ったが、でもこのまま死んでしまうのはなんか許せない気持ちになる。


「お願い、元に戻って」


 声に出して念じながら彼に攻撃をするが、全く効く様子もない。多分彼には聞こえてないし、ほぼ無意味かもしれないが、それでも願わずにはいられない。どうか元に戻ってと。

 攻撃しては防御しての繰り返し。魔王にはほとんど攻撃はきいておらず、こちらが疲れはてて倒れるのが先だろう。それでも体力がある限り彼をとめる。


「お願い、だから!」


 疲れても声はかけ続ける。それが届いたのか、攻撃しようとした瞬間彼と目が合う。先ほどとは違う、少し悲しげな瞳。焦点が合ってない目ではなく、しっかりとこちらの顔を認識したように感じた。おかけで攻撃の手をとめてしまう。彼の目の前まできたが足の力が抜け座り落ちてしまう。


「っ危ない」


 瞬間、攻撃されそうになった私をトウマ君が庇う。あれは幻想か?自分が見たかった幻の彼か?目の前にいるのは確かな魔王で、目には確かな殺意が宿っている。


「っもう、嫌だ」


 いくら攻撃してもきかない。元に戻る気配はない。トウマ君も勇者の力が使える気配はない。一度抜けた足の力は戻らず、全然立ち上がることが出来ない。トウマ君が私を庇うように彼をとめてくれるが、ほぼ限界に近そうだ。

 どうすればいい?何をしたら止められる?


『愛しい人を殺したことで理性を取り戻す』


 理性を取り戻せたら攻撃はとまる?もしかして勇者の力が彼にきく?そう考えた。一度考えた案は頭から離れない。それが一番いいとさえも思える。もう、それしか考えられなくなった、少しでもここにいる人を多く救う方法はこれしかない気がする。それに今この状況なら少しでも可能性がある方にかけたい。


「トウマ君、次の攻撃でよけて」

「っ!?何を」

「私が攻撃をうける」

「なんでっ!」

「お願い、私を、信じて」

「信じて、いいんですね?」

「うん、一か八かだけど、少しでも可能性があるなら」

「わかりました」


 一度魔王と距離をとり、彼の攻撃を止めようとした直前に、トウマ君が横へずれる。そして彼の拳は真っ直ぐに私へと向かう。またしても彼と目が合う。前と同じ、どこか悲しげな、寂しげな、迷子の子供が親を探すような瞳。


「大丈夫、私が受け止めるから」


 そう小さく呟く。貴方をこれ以上魔王という檻に囚われさせたままではいけない。貴方は私が助けるから。心の中で決意をし、彼の攻撃を真正面から受け止めた。

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