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「魔王を助けるのですか?」
「私はそう聞いたの。ねぇ、これは私の勝手な考えだけどねセシル、あなた私を助けるときわざと時間をかけたでしょ?」
「なぜ、そうお考えを」
特に動揺するでもなく、淡々と表情も変えずに理由を聞いてくる。むしろ私の方がセシルに冷たい対応をされて少しショックを受けるが、怯んでられない。
「すぐに助けたら、オリヴァーお兄ちゃんは私の無事を見て絶望せずに魔王にならない、、、から。魔王にしたら、彼は倒されて死んじゃって私はひとりぼっち。それでセシルに依存するとでも思ったの?」
「…」
「セシルの事は好きだし、感謝してる。でもそれは友情みたいなものであって、あなたのした事によってこれまでの信用はほぼ0に近くなってるわ」
「そうですか」
セシルの告白を振ったみたいな感じになったが、思ったよりダメージが無さそうに見える。目を軽く伏せているだけだ。
「倒してください」
「え」
「生きてる状態で助ける方法は知りません。ゲームの中で魔王は聖なる力によって人間に戻り、生き返るのですから」
「……。」
「ルチア様を呼んでもおそらく無理でしょう。ゲームの中でも好感度を最大まで上げなければ生き返らせることに失敗してバッドエンドになりましたし。今、ルチア様は特にオリヴァーを意識してないので無理です」
「そんな、嘘、助けられないの?」
「ゲーム通りなら」
最後の希望もあっけなく崩れる。助からない。その言葉が重くのし掛かる。甘く見すぎていた、この世界を。『だから失敗するんだ、この楽観主義者め』心の中の自分がそう囁く。
「自然に治ることも無いでしょう。もう一つのバッドエンドで魔王に近づいたらルチア様が殺されるというものがあります。愛しい人を殺したため理性を取り戻しますが、魔王化は解けず、彼は彼女の名前を呼びながら苦しみもがいて死ぬというものです」
「苦しみもがいて、、、」
「ですからせめて、安らかに眠れと。勇者様の力で彼を楽に死なせてあげることしかできません。どうされますか?レティア様」
魔王とリックの方を見る。大分リックはヘロヘロになっているのに対し、魔王は余裕と言った感じだ。多分リックが倒れたら次に狙われるのは私たちだ。それまでに決断しなければならない。トウマ君は不安そうにこちらを見ている。彼だってしばらく世話になっていた魔王を殺すのは心苦しいだろうに。
「っぐは、」
しばらく考えていると突然、呻き声と共にバタンッと音がする。音のした方を見るとリックが木に打ち付けられていた。あちこちに傷があり、血が出ている。『このままじゃ彼も死んでしまう』そう思った。
「ねぇ、トウマ君。倒すのを手伝ってくれない?」
「彼を、、、いいんですか?」
「このままじゃ可哀想だもの。せめて、、、ね、」
「わかりました。勇者の力があるのかはわかりませんが、全力で彼を止めます」
「大丈夫、私も手伝うよ」
実は小屋の中にあった少し錆び付いた剣をとっていた。どこまで剣術が通用するかわからないが、私だって彼を止めたい。
魔王がリックに近づき、最後の止めを刺そうとしている時に私は思いっきり彼に向かって石を投げた。
「魔王さん、あなたの相手は私よ」




