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「うわぁ!」


 国境を越え、しばらくすると見えてきたのはサヴィニアの城下町。とても活気に溢れていて、私も昔はよくお忍びで町に出ていた。

 だいぶ久しぶりな気がするが、実際にはまだ1週間もたっていないだなんて驚きだ。


 しばらくすると町の入り口に着く。


「着きましたよ」


 入り口付近に馬車を停め、御者が声をかけてくる。先にルシアンが出て、それにオリヴァー様が続く。私はオリヴァー様の手を借り、馬車を降りる。馬車を降りるのに魔王の手を借りるだなんて一般の人が聞いたら恐怖するだろう。いや、でも、仕方ない。手を出してきてくれたのだから払った方が失礼だろう。


「ようこそサヴィニア国へ。城下町に入る許可証は持ってますか?」


 入り口にたっている兵士の一人が声をかけてくる。ここで帽子を取って、サヴィニア国の第一王女のレティアだと説明できたら楽だけど、そんなことをしたら城に拘束されて殺されるだろう。


「レジャータ商会の者です。これを」


 そう言ってルシアンが出したのはレジャータ商会の社員証みたいな物だった。


「ご協力、ありがとうございます。して、そちらのお二方は?」


「私の付き人です。彼らの分の許可証もあります」


 さらに鞄から2枚の紙を出した。私やオリヴァー様が町に行くと知っていて、用意をしたのかは知らないが準備よすぎるだろう。


「確認いたしました。それではどうぞ」


 兵士の人が門を開けてくれる。私の目前にサヴィニアの城下町が広がった。町にはたくさんの店が建ち並び、踊り子が踊り、詩人が詩を唄っている。


「こ、これこそサヴィニアの城下町!」


「私はごちゃごちゃとうるさいのは嫌いだな」


 私が目をキラキラさせ懐かしんでいると、オリヴァー様がその雰囲気をぶち壊しにきた。


「うるさいのが嫌なら来なければ良かったじゃないですか」


「私がいなかったらどうせ町で迷子になっているだろうと思ってな」


「ここは私の育った町です。迷うわけがありません」


「それに私がいなかったらお金がなくて何も買えないだろう」


「ルシアンにもらうので大丈夫です」


 こやつめ。私をまだまだガキだと思っているのだろう。それも蝶よ花よと育てられたわがままで一人じゃ不安になって何もできない無知な王女様だと。ところがどっこい。私は前世という武器があります。前世で作られたプラチナメンタル、舐められたら困る。


「まぁまぁ二人ともそれくらいにして。行こうよ」


 私とオリヴァー様の言い争いはルシアンの一言によって終結となった...が、どうせルシアンがいなくなったらまたグチグチ言い出すのがおちだろう。


 サヴィニア国は城を中心とし、貴族の家が周りをぐると囲んでいる王都と、それを囲む第一地区、さらに第一地区を囲む第二地区がある。そこから先は、各貴族の領地やら繋がってひとつの国となっている。城下町はだいたい山手線の内側ほどの大きさだろう。

 そして、今私たちがいる場所は第二地区。レジャータ商会は確か王都にあるはず。なので――


「馬車を乗り継ぐんですね」


 今、私たちは第二地区の王都行きの馬車を待っている。1時間に数本、第二地区や第一地区、王都をつなぐ乗り合い馬車が走っている。


「そうだよ。だって王都まで遠いし」


「確かにそうですけど...」


「どうしたの?」


「座るのに疲れました」


 魔王城からかれこれ1時間ぐらい馬車乗ってる。ずっと座ってるのは苦手だし、前世で座りっぱなしは良くないと学んでいるので座りっぱなしに抵抗がある。


「レティア、確かお前は気配遮断の魔法が使えるだろ?」


「ええ、そうですけど...」


 急に話しだしたと思えば気配遮断魔法を使えるかって?何でオリヴァー様が知っているのだろう?少し驚きながらもあまり隠す必要がないのでこたえる。


「私とルシアンの分もできるか?」


「わかりませんけど...」


「3人分できるのなら、私が転移魔法で移動できる」


 できるか?と、訪ねられても本当にやったことがないのでわからない。でも、やってみる価値はある。


「わかりました。やってみます」


 私は目を閉じ、頭の中で呪文を唱える。この魔法は私が初めて覚えた魔法で、これまでに何度も使ってきた。多分できるはず。呪文を唱え終わったところで目を開ける。見る景色は変わらないが...


「あーーーー!」


 思い切り叫んでも周りの人には聞こえない。しかし、オリヴァー様とルシアンにはしっかりと聞こえたらしい。二人とも私の声がうるさかったのか耳を塞いでいる。これは...


「成功したね」


「はい!」


 今、私がやったのは私たち3人分の範囲の気配を消す方法。一人一人やったら結局、相手の事がわからなくなってしまうのでね。


「上出来だ。それではいくぞ」


 オリヴァー様がパチンと指をならすと、あっという間にレジャータ商会の前に着いた。相変わらずこの魔法には驚かされる。


「それじゃ、気配遮断魔法解いてくれる?」


「わかりました。いきますよ―――」


「待て」


「「え?」」


 ルシアンと声が被った。いや、そんなことはどうでもいい。もう着いたのだから気配遮断魔法を継続する理由がない。


「いきなり現れたら不審がられるだろう」


 オリヴァー様に言われてはたと気づく。周りを見るとたくさんの人がいる。それに商会の前にはしっかりと警備員...の役割の兵士がいる。確かにこれでいきなり3人の人が出てきたらおかしいだろう。


「影に移動しよっか」


 建物の裏に入ると人目につかなくなる。そして私は気配遮断魔法を解いた。


「ありがとう。それにしてもすごいねレティアちゃんも魔法が使えるだなんて」


「そんな、私が使えるのはこれとあと少しの光魔法だけです」


「光魔法ってすごいじゃん。めったに使える人がいないって言われてるやつだよね。いいなー」


「でも、妹のルチアは光魔法をもっと完璧に使えるし、妹の方が魔力が多いのです」


 ゲームではルチアの光魔法がめちゃくちゃ使われますからね。一応私も少しは使えることになってるけど、対したことには使われない。


「そういえば今、城はどうなっているのですかね?」


 私がいきなりいなくなってとても驚いてるだろう。まさか、私を逃したってことでセシルが捕まってたりして!?でもセシルならなんとかするだろうと信じてる。大丈夫。多分、きっと。


「気になるなら行ってみるか?」


「え?」


「先程のように気配遮断魔法を使えば大丈夫だろう」


「まぁそうですけど...」


「知りたくないのか?」


 オリヴァー様が少しニヤリとする。半分楽しみで、半分は恐怖だ。でもなんかあったらオリヴァー様の転移魔法があるし大丈夫でしょう。


「行ってみましょう」


「決まりだな」


「ねーちょっとお二人さん。僕を忘れてデートの予定立てないで」


「さあ、そろそろ時間だぞ。いかなくていいのか?」


 ルシアンは懐中時計を見て、驚くとすぐさま商会の方に向かっていった。


「私たちも行きますか?」


「そうだな」


「先に城か町、どちらに行きますか?」


「先に町に行こう」


「わかりました」


 私たちも建物の影から出る。そして何を買おうかと考えつつ町に向かって歩き出した。

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