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「何か困り事かね?レティアお嬢様」
それは突然だった。座り込み、疲れてウトウトしていた時に後ろから聞こえてきた。
『さっきオリヴァーお兄ちゃんに倒されたはずじゃ』
もう聞くことはないと思っていた人の声。その声で私の体は総毛立ち、一瞬で汗が吹き出す。おそるおそる振り替えると、私の予想通りの人がいた。
「な、んで」
不敵な笑みを顔に張り付けたリックがそこにはいた。ようやく整理のつきかけた頭がまた混乱する。心臓も大きく音をたてはじめる。何故、どうして、そのようなことばかり考えてしまう。ヒュゥ、と喉がなった。呼吸が浅くなり、空気をうまく吸い込むことができない。
「彼女のことはずっと怪しんでいた。彼女は私を利用していたようだが、今回は僕も彼女を利用させてもらいました」
「り、よう?」
「彼女らが殺したのは私の分身です。まんまと騙されましたね」
「え、え」
立ち上がろうにも足に力が入らない。驚いて全身の筋肉が硬直しているようだった。呆然と彼を見上げることしかできない。
「さ、レティア王女。私と一緒に来ていただきましょうか」
老獪な蜘蛛の目をした彼。魔性めいた美貌が迫り、有無を言わさぬ問いかけをされる。私は彼に手を引かれどこかへ連れていかれた。
※※※
「どこ、行ったんだろう」
慌てて走り出したレティア王女の後を追ったが、自分は薬を盛られていたのだ。ところどころ足はもつれ、それでもなんとか追い付こうとしたが、気づけば見失っていた。
「ううっ」
死んだはずが一人、見知らぬ土地に突然やってきて、薬盛られたり…。
すごく弱気になってしまう。不安になる。何故こんなところにいるのか。どうして危険な目にあっているのか。
『夢なら覚めてほしい。実は現実世界で死んでなくて病院に行って助かってるかも』
夢の中という説を信じ、寝ようとしたが寝られるわけがない。物騒な物音、何かを触った感触、すべて現実だ。頬をつねったりもしたが当然痛い。
『い、いいや。神様からのチャンスなんだ、これは』
弱気になっている心をなんとか奮い立たせる。そうだ、悪いことを考えてはいけない。前向きに進まなければ。
そして少し歩いた時だった。
「私と一緒に来ていただきましょうか」
「!?」
声が聞こえ、驚いて木のそばに隠れる。ちらりと声の方を見れば、レティア王女がリックに連れていかれるところであった。
『なんてこった。早く、オリヴァーさんを』
そう思って、彼はどこだろうとキョロキョロした時。
「レティア、どこ行った」
「レティア様、どこですか」
偶然にまた偶然が重なり、彼らがレティア王女を探す声が聞こえた。1つはオリヴァーさんの声。もうひとつ、女性の方はセシルさんだろうか。彼らはきっとレティア王女を助けてくれる。
『伝えないと』
そして声がした方へと走り出した。
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