58
引き続きセシル視点です
今でも初めてレティア王女に挨拶にいった日のことを鮮明に思い出せる。緊張のあまり、ガチガチに固まった挨拶だったし顔だってやっと彼女に会えるという嬉しさと、これから大丈夫かなという不安が入り交じり寝不足になったため目の下にくっきりと隈ができてしまっていた。それなのに彼女は、
「あなたがセシル・クロイツさん?これからよろしくね」
と、ほころぶように笑い、王女らしくもなく挨拶も忘れ私に抱きついてきた。やっと5歳になったばかりであどけなさの残る顔をして私に笑いかける。
『レティア王女だってまだこんなに幼いのに頑張ってきたんだ。私が守らないと』
まだまだ小さい背中を撫でてやると、彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、私が微笑み返すとすぐに満面の笑みになり、そのか細い腕でさらにきつく私を抱き締めた。そして私は誓った。絶対に私だけは彼女の味方でいるのだと。さらに悪役にならないよう私は彼女に溢れんばかりの愛情を注ごうと。
あの時はまだレティア王女が転生者だとは知らなかった。でも、彼女が転生者だと知ってからも私は彼女を嫌いになれるわけはなかった。むしろ、その明るさ、優しさに徐々にひかれるようになった。気付いた時にはもう遅かった。彼女のことが好きで好きで堪らなくなっていた。だから彼女を自分の物にしようと思った。しかし、悲しいことに私はただの王女専属侍女。権力だって全然ない。そこで誰かを利用しようと思ったのだ。
「あなたが、リックさん?ちょっと話を聞いてくれませんか?」
そう言った後の彼の怪訝そうな顔はなんともいえないものであった。何故なら私は彼がルチア王女を覗き見ている所を話しかけたのだから。不機嫌そうに私を睨み返すが怯むことなく笑ってやった。
「ルチア王女を自分の者にしたいのでしょう。私と共犯者になりましょう」
さらに怪しげなものを見るような目で見てくる。しかし、瞳の中には少し期待も混じっているように見えた。
「大丈夫、私も手にいれたい人がいるのです。あなたが私の計画に手を貸してくれたらルチア王女を自分のものにできるばかりか、それなりの権力も手にいれることができる。どう?私と手を組んでみない?」
言葉と共に、ルチアが手作りしてくれたお菓子を渡してみる。それだけで十分であった。彼が前からルチア王女が好きで彼女と仲良くするレティア王女を嫌っていたのは知っていた。だから私はそれを利用した。レティア王女は自分を物語の中の人物だと思い込んでいる、と嘘をつきそのごっこ遊びに付き合ってもらうと言った。幸い、彼はその言葉を信じ、私が言った通りの行動をしてくれた。お陰でレティアに彼が前世の記憶を持っているかもと思わせることができた。そして彼の魔力を覚醒させ、神官長にするための対価として、シーネスト国を滅ぼさせ、オリヴァーに呪いをかけた。この時には彼は私を完全に信用していたのですんなりと事を実行してくれた。
『やっぱり持つべきは使いやすい駒ね』
それからも私は彼を使い、順調にここまで事を進めてきた。途中、ルシアンと名乗る男が自殺しようとしているのも見て彼も利用することにした。いわく彼はロゼッタ王女を慕っていて彼女が死んだ今、いきる理由はないのだと。なんてこの物語にふさわしい役なのだろうか。傷ついた彼を引き込むのだって簡単にいった。ロゼッタはかわいいからリックがひそかに匿っていると。シーネスト国にはオリヴァーが残っているだろうから彼の世話をして彼が成長したらリックを共に倒し、彼女を救えばいいと。初めは彼だって疑っていたが、ロゼッタのことを思っていないのかと揺さぶりをかけたらすぐに信用した。レティアがオリヴァーたちの元へ転移した後も逐一レティアについて報告をさせ、リックにシーネスト城を襲わせる時にはその場に居合わせないよう指示だって出した。
後はゲームの通りに物語を進ませ、最後に彼ら二人を殺し、オリヴァーもいざこざの最中に殺せば彼女は完全に私のものになると。レティアがオリヴァーを慕えば慕うほど失ったときの悲しみは大きくなる。それを利用して私に依存させる。これが当初の私の計画であった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
もうすぐ2月も終わる...早いですね




