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セシルの過去です
「ねぇねぇ━━の推しは誰?」
「うーん、、、誰だろう。全員かっこいいしなぁ」
「いやいや、絶対オリヴァー一択でしょ!」
「え?この前はトウマって言ってなかったっけ?」
「マジで、オリヴァールートやったらもう無理。かっこよすぎる……」
「はいはい」
友人から勧められてなんとなく始めてみた乙女ゲーム。最近CMもよくやるようになった『聖なる乙女とキスの魔法』ストーリーは隠しキャラ含めてすべてやったし、サブストーリーもすべてクリアした。だから推しキャラが見つからなかったわけではないのだが...。
「でも本当にレティアって嫌い。害悪モンスター」
「そう...だね」
「マジで懲りないし、いじめ続けるし。いくらゲームの中と言えどアホすぎ。そんなんで皆がレティアのことを好きになるわけがない」
「...」
「ルチアと同じ遺伝子ってのが信じられない」
『さすがにそこまで言わなくてもいいんじゃない?』喉元まで来ていた言葉を飲み込んだ。相手へ共感を示す言葉は出て来なかった。小さくコクりとうなずく。
その後の、友人の話にはうまくついていけなかった。
「聖なる乙女とキスの魔法」
家に帰ってから、アプリを開く。タイトル画面をタッチするとはじめから、続きから、ギャラリー、設定といった画面がでてくる。もう完全コンプリートしたので、消してもいいはずだが私は消さずにいた。迷わず続きからをタッチし、いくつかのセーブデータの中からお気に入りシーンを探し、再生をはじめる。
『私は、ただ認められたかった。優秀な妹と比べられたくなかった...』
本当に短いレティアの回想。たったの2分ほど。でも何よりも共感できたし、レティアこそが私の推しであった。いくら他の人から嫌われようとも私だけは彼女を好きでいた。
「こういうときに、よくある転生とかできたらな」
できればレティアの家族だとか、城のメイドだとか、なんならトウマや騎士団長、魔王と言った攻略対象でもいい。レティアを救いたかった。守りたかった。
それが叶ったのだろうか。
「あんまりだよ……━━。もっと仲良くなろうって約束したのに」
交通事故で私はその人生の幕をおろした。
そして、私の願いは叶えられることになった。
「セシル...この子の名前はセシルだ」
とある世界への生まれ変わり。
「なぁ、聞いたかあの話」
「ええ、王女様がお産まれになったらしいわね」
「名前はなんて言うんだ?」
「レティアって言うらしいわ」
生まれ変わってから心細く色のなかった世界が、急に色を取り戻し始めた。
この世界は私がプレイしていたゲーム、聖なる乙女と魔法のキスだ。神様から与えられたチャンスかもしれない。
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