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「レティア様...」
セシルは震える声で私の名前を呟くと、おそるおそるこちらを振り返る。信じられないと彼女の瞳には書いてある。まだこの現実が信じられないのか、私を見上げて固まってしまっている。
私は一旦セシルを無視して、オリヴァーお兄ちゃんの容態を確認する。
「..レ、ティア?」
「私のことがわかる?しっかりして」
意識があることにとりあえず安堵するが、私を見上げているつもりだろう目はどこか虚ろで私をしっかりとらえられていないようだった。紅いシミが広がる服が事態の大きさを物語っている。
「なんで、こんなことに」
そうポツリと呟くと、セシルの方に向き直る。彼女は何を言うでもなく、ただ私を見つめるだけだ。
「私のことは攻撃しないの?」
確認のように聞いてみると彼女はコクコクとうなずいた。
「じゃあなんでオリヴァーお兄ちゃんだけ...こんな...」
大切な人を傷つけられた怒りで声は僅かに震えている。それでも彼女に殴りかからないぐらいの理性は働いているし、セシルだって私は家族だと思っていた。だからこそ信じられなかったし、理由がわからなかった。最初に魔王ルートをすすめてきたのは彼女であったし、きっと私たちのことを祝福してくれて、喜んでくれるだろうと思ったのに。私の中に深い悲しみが浮かび上がる。
「.....ったのに」
「え?」
「レティア様は私だけのお姫様だったのに!」
「!?」
突然にセシルが、叫び出す。私とオリヴァーお兄ちゃんは驚いたような顔で彼女を見つめる。叫んだことよりも、叫んだその言葉に私は驚きを隠せない。
(私がセシルのお姫様?なんで...)
理由がわからないまま、私はセシルを呆然とした顔で見てしまう。確かに彼女は誰よりも私のことを大切に守ってきてくれた。しかしそれは侍女という立場や家族のような感情を持っているからだと考えていたが、どうやら違ったらしい。
(もしかして、私に対する感情って恋愛感情?)
不意に頭に浮かび上がった考えは馬鹿げているようだが、否定できない。セシルは私を恋愛対称として見ていたのだろうか。ずっと前から。それともどこかで変わったのか?答えがわからず、私の頭の中はたくさんの情報が飛び交っている。
「レティアは、...お前の姫...ではない。私の愛する人、...妻だ」
(いやいや、つっこむ所はそこですか?)
せっかく彼が話せるということがわかって安心したと思ったのに。まさかの対抗するところはそこですか。話した内容は...嬉しいんですけど。
「あなたみたいな人にレティア様はふさわしくない。私こそがレティア様に一番あっている人なの」
「いや、レティアは...」
「ちょっと待って。さっきからどうしたの?二人とも私を大切に...好きに思ってくれてるのは嬉しいけど、恥ずかしいし...。それにセシル、あなたは私をどう思っているの?本心を教えて」
私のことをどっちがよく思ってるか争いは一旦終わりにさせよう。これ以上やられたら私の心臓がもたない。既にバクバクうるさいし、なんか体がむずむずする。
「私の...本心ですか?」
私の言葉を聞いて、争いをやめた二人。セシルは改めて私の方に向き直る。
「嫌いに...なりませんか」
「え?」
「いいえ、お話しましょう」
彼女は自分の過去をポツリポツリと語り出した。
いつも読んでくださりありがとうございます
気がついたらメリクリ、あけおめと過ぎてしまっている。早い...
皆様、今年もどうぞよろしくお願いします!




