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パラパラと何か透明なモノが崩れていくのがわかる。
(やった!これでオリヴァーお兄ちゃんの所に行ける!)
自分の顔がみるみる笑顔になっていくのがわかる。結界が消え、これで私を邪魔するものはなくなった。しかし、残念なことに結界の中でずっと迷っていたためか、もう方向がわからない。
(このまま終わらないで!せめて、何か役にたちたい!)
その願いが無視されたのか、すぐ近くで『ぐほっ』という短い声が聞こえた気がした。
(まさか、この近くに!?オリヴァーお兄ちゃんもしかしてリックやっつけたのかな)
何も役にたてなかったことは正直悔しい。でもオリヴァーお兄ちゃんがリックに負けるところなんて想像できない。だからこれで終わりだと思った。私は黒幕の存在なんて知らずに。そしてそれがよく知った人だとも。
(お疲れ様!とか言って後ろから抱きつくのとかありかな?よし、そうしよう)
この時ばかりはオリヴァーお兄ちゃんを甘やかして褒めてあげようと、私はバレないように音をたてずに少しずつ音のした方へ近づいて行く。やっと終わったと勝手に決めつけて抱いた安心感を持って。
「.....げる。....を」
(何か話してる?)
ようやく通常の会話も聞こえるような距離に来た。
(さ、いるかな?)
やっと終わった、ありがとうオリヴァーお兄ちゃん、と思いながら目の前の木から人がいる方を覗きこむ。が、目前の世界は想像とはとうにかけ離れた場面であった。
「っ」
あまりの恐ろしさにサッと木の後ろに隠れる。今までとは違う不安が、恐怖が私を襲う。自分でも気付かない内に自分で自分の口を塞いでいる。が、口を押さえている手なんて既に恐怖で震えている。なぜ自分はこんなにも怯えているのか。頭でわかろうとしても先程の場面が強烈すぎて信じられない。
(なんでセシルが...オリヴァーお兄ちゃんを刺してるの?これ、夢?夢だよね。見間違えたかな)
そう希望を込めて、もう一度おそるおそる振り返るが次に目に飛び込んできたのはセシルがオリヴァーお兄ちゃんのお腹に刺した剣を抜き、リックに刺したところだった。
「ひっ」
慌ててもう一度木の後ろに隠れる。
(なんで、なんで?どうして...)
状況が全くわからない。しかし、このままにするわけにはいかない。思考がぐちゃぐちゃになった頭でも、オリヴァーお兄ちゃんを守らなければということは強くわかった。
(私も役にたたないと。私が今、助けるから)
オリヴァーお兄ちゃんはセシルの方へ振り返っている。このままではまずい、と私は恐怖に震える足に力を入れ、二人の元へ駆け出していた。
「レティア!?」
「レティア様!」
二人が私の足音の方を向くと、走ってくる私に気づきこちらを見つめてくる。私はセシルがこちらに気が向いている隙に彼女を突き放すと、オリヴァーお兄ちゃんをかばうようにして立つ。
「いくらセシルだって私の夫を傷つけさせないよ」
好きな人を傷つけられた怒りを込めてセシルに警戒するよう、低い声でそう言うと彼女はおそるおそるこちらを振り反った。
いつも読んでくださりありがとうございます!
コロナの新規感染者や死亡者が減るように日々のお祈りしています。
皆様も気を付けてください(・・;)




