53
前半はオリヴァー視点
後半はレティア視点です
「教えてあげる。本当の事を」
艶を含んだ楽しそうな声でそう言った女は俺の腹に刺していた剣を勢いよく引き抜くと、前でグッタリと青い顔をしているリックに突き刺す。
「ぐっ」
体をわずかに震わせると彼は事切れたのか、微かに上下していた胸も動かなくなってしまった。状況が掴めず、すっかり彼への復讐も忘れてしまっていた。冷静になろうとすればするほど、さらに混乱する。
「なっ」
「あと残る邪魔物はあなたよ。オリヴァー」
ただ、自分の名前を呼ばれたのはわかった。後ろを振り返らなければと直感が言う。ズキズキと痛むお腹を押さえながらおそるおそる振りかえると、そこにいたのはあの頃とは印象が真逆のレティアの侍女セシルであった。
※※※
「もう、無理、疲れた」
走りをとめるとそのままへなへなと座り込んでしまう。できれば今すぐ水が欲しい。自分がここまで方向音痴だとは思わなかった。さっきまではうっすらと明るいほどだったが、もう完璧に明るい。もしかしてこれは夢ではと頬をつねってみるが、ちゃんと痛い。これが現実だなんてヤバイとは思ったが、お陰で冷静になれる。
(焦ってはダメダメ。冷静に冷静に)
数回大きく深呼吸をする。冷たい空気が肺を、喉をさす。全力疾走をして熱を持った体を適当に冷やしてくれる。
「ふー、落ち着く」
頭も大分すっきりとした所でもう一度方向を考える。先程から全方向かなりまわったと思うが、どうもここまでつかないとさすがに違和感を覚える。よくよく辺りを見渡せばこの景色だって何回も見た記憶がある。
(もしかしてこれも魔法のせいだったり...?)
しかし、それがわかったところで私は無能だ。もし本当に魔法の結界があって同じ場所をぐるぐるしていたとしても、私には魔法の結界を壊す術を知らない。
(よくよく考えたらこれってゲームオーバーじゃない!?)
自分で考えて、自分でショックを受ける。まさか、嘘だろと思いたいが、それ以外に何か理由があるというのか。一度消えた焦りが再びじわじわと迫り来る。
(ああ、どうしようどうしよう。ヤバイヤバイ。パニックで何も考えられない)
考えれば考えるほどさらに焦ってくる。
(乙女ゲームの記憶で何かなかったけ?...っそういえば)
主人公一向が魔王城に向かっていたとき同じことが起こった。城の近辺の森に結界を張り、わざと城にこれないようにした。しかし、主人公のトウマ君はそれを破った。
(もしかしたらあの方法なら!ちょっと道具はダサくなるけどいけるはず)
そう思い、私は近くに転がっていた手頃な枝をとる。そして、結界を壊すようにと静かに枝に魔力を込めていく。
(そう、それで最後の決め合図は)
「我が剣よ、この結界を貫け!」
ゲームの中のトウマ君もこのようにして剣に魔力をこめ、それを投げることで結界を破った。確か当時、トウマ君を演じていた声優にドはまりしていた記憶がある。自分でも声優っぽくカッコつけて掛け声を言うと、魔力を込めた枝を天井に張られているだろう結界へ投げつける。到底結界に届くような距離ではないと思っていたのだが私に、ヒロインチートでもついたのか、それは見事に結界を破った。
いつも読んでくださりありがとうございます!




