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「はぁ、はぁ」
もつれそうになる足。先に進みたくないと訴えかける心。走りにくい瓦礫の転がった道。しかし、体は勝手に走っている。ルシアンが裏切り者だとすると、今一番危ないのはオリヴァーお兄ちゃんだ。オリヴァーお兄ちゃんが負けるとは思わないが、思いたくないがそれでも不安になる。
(どうにか、間に合って)
息も絶え絶えになりながら、がむしゃらに走り続けていると突然、後ろから何かが飛んでくる。
「っ」
間一髪の所で避けるが、その途端にバランスを崩し、派手に転んでしまう。段差にぶつかり、遠くまで投げ飛ばされる。体を強く打ち付けたのか、全身が痛い。
「いっ、、、た。誰、が」
痛みに悲鳴をあげる体をなんとか起こし、何かが飛んできた方向に目を向ける。そこには私の想像どうりの人が、こちらに向かって歩いてきていた。
「わざわざ転んで傷をつけなくても。君の体が傷だらけになったらあの人が怒るんだ。ああ、それに僕は君を殺そうとはしない。あれだって、人にぶつかったら中に入ってる睡眠ガスが吹き出すようになってるただのボールさ」
「ルシアン.....なんで」
いつもと変わらない笑みを顔に張り付けたルシアンが私の目の前にいる。やっぱりという諦めのような感情と、そんなという裏切られた悲しみの感情が、心の中で渦巻いている。そんな私とは対称的にいつもの笑顔を浮かべた彼は何食わぬ顔でハンカチを出し、私の手当てをしてくる。
「やめてっ」
もしかしたらまた変な薬でも盛られてしまうかもと、手当てをしようとする彼から逃げる。いきなりこんなことをしてくるなんて明らかにおかしい。
「傷つけられたくなかったらおとなしくして。僕だって君を傷つけたくないんだ。おっと、勘違いしてほしくないのは僕は君が好きなわけではない。ただ、君が傷つくと、僕の願いが叶わなくなってしまうからね」
一人でぶつぶつと言いながら私の手当てをしてくる。何故か傷の手当てはしっかりと大切な物を扱うような優しい手つきでてきぱきと進める。私は彼の考えていることがわからずにされるがままになってしまう。
(リックと協力しているのなら私を殺そうとするはず、まさか裏にさらに黒幕がいるか。それともリックが自分自身で私を殺したいのか。てこずらせやがってという憎しみからそれもあり得る。どちらにせよ、一番危ないのはオリヴァーお兄ちゃんだ)
「はい、終わり。大丈夫?立てる?」
傷の手当てをした後にこんなことまで。思わず私は苦虫を噛み潰したような顔になる。何故オリヴァーお兄ちゃんではなくてこういう他の人と胸キュンみたいなシーンがあるのか。
「大丈夫、一人で立てる」
そう言って立とうとするが、転んだときに足を捻ってしまったのかうまく立てずに彼に寄りかかってしまう。
「きゃっ」
「ああ、ほら無理をするから。さ、捕まって」
その時だった。彼の肩に捕まろうとした時。
「がっ」
「え?」
ゴンッという鈍い音がしたと思うと、突然彼がふらりと倒れる。
「な、んで?」
彼はどさりと倒れ、そのまま動かなくなってしまう。突然の状況に理解が追い付かずこんがらがっていると、背後から聞きなれた声が聞こえた。
「レティア様!大丈夫ですか?」
「セ、シル?」
私の侍女であり、オリヴァーお兄ちゃんと私を引き合わせてくれたセシルがそこには立っていた。
いつも読んでくださりありがとうございます。
↓どうでもいいけど、どこかで話したかった
私が残していたゼリーを家族に食べられ、とてもショックを受けました。好きなものはとっておきたい派の私にとってこの家には敵しかいない...。




