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先程から広すぎる屋敷内を走り回る。が、一向にトウマ君は見つからなかった。上下左右行ったり来たり。目が回りそうだった。
「もう、すべての部屋を、見た、はず、なんだけど」
走り回ったせいで息は切れ切れだ。この屋敷は広すぎる。頭の中でこの屋敷や周辺の地図を描くが、すべて確認したはずだ。あの本棚の裏の隠し通路だって、ちゃんと確認した。しかし、見つからない。焦りと不安から少しずつ私の心にイライラが募っていく。
「多分、あの人はトウマ君を私のように眠らせて、どこかに移動したんだよね」
イライラしていては仕方がない。一旦冷静になろうと改めて考えてみるが、不審な点はないはず。それとも意外と近い所にいたりして。トウマ君だって男性だ。大きな男の人一人を遠くまで運ぶのはしんどいだろう。ある一つの事が思い浮かび、私は食堂へと向かった。
バタンッと大きな音をたてて開く扉。今の私に令嬢っぽさを求めてはいけない。ずかずかと大股でそのまま、テーブルまで歩いて行き、床までついている長いテーブルクロスをめくった。
「ビンゴ」
トウマ君は口と目を縛られ、床に転がされていた。しかし、薬の効き目が強いのか、一向に目覚める気配がない。ひとまず、テーブルの下から彼を引きずり出し、彼を縛り付けるものを取り外し、余っていた薬をポケットから取り出す。水を汲み、彼の口を上向きに大きく開けると私は薬を水と共に流し込んだ。恋愛感情などがあったりすれば、口移しだなんてバカップルのするような事をしたかもしれないが、私にはもう心に決めた人がいる。浮気は厳禁。甘々キュンキュンの物語じゃなくて悪かったね。オリヴァーお兄ちゃんにならやったかも知れないけど。
そんな全く関係のないこと考えながらしばらくすると、彼が目を覚ます。
「え?ここ、は?」
「大丈夫?あなた、薬を盛られて眠ってたのよ」
「ってレティアさん!?わわっ今、何時。リックは?ああ、体もう痺れてない。というか、ルシアンさんは?」
状況がわからずにとりあえずあたふたするトウマ君。ひとまず、彼の無事に安心する。そして私は状況を少しずつ手短に説明していく。彼も理解がはやくてとても助かった。
「まだ、この屋敷には攻めてこないのですね」
「そう、みたい」
「それよりも、ルシアンさん」
「ルシアンがどうかしたの?」
「僕に薬を飲ませた人」
「っ!」
突然の告白に驚き、目を見張る。あり得ないと思った。ずっと一緒にいた彼がこんなことをするだなんて。彼はずっと頭の中から敵ではないと除外していたのに。
(じゃあもしかして私に薬を飲ませたあの、偽のトウマ君も彼?)
まだ攻めてこないリックの部下。私たちにリックの部下が攻めてくると伝えた彼。この屋敷とオリヴァーお兄ちゃんのサポートを任された私たちに飲ませた薬。バラバラにちらばっていたパズルのピースが集まり、一つの答えを作り出す。
「まさか!」
頭の中に浮かび上がった一つの仮定。信じたくはないが、どうもそれが一番しっくりとくる。頭の中ではまったパズルのピースは外れない。
「もしかして、リックとルシアンは手を組んでたの?そして邪魔な私たちは先にここで戦闘不能にしとく」
私が呟いた言葉の意味をトウマ君も理解したのか、彼の顔もみるみるうちに青ざめていく。
「オリヴァーお兄ちゃんが危ない」
私はふらふらと立ち上がると、オリヴァーお兄ちゃんのいる方へ一目散へと駆けていった。
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