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「ごめんね」

「いや、大丈夫...だけど」

「もう一度入れてもらえないかな?」

「わ、わかったよ」


 新しく入れて欲しいとお願いすると彼は苦笑いをして、私が落とした器を拾い上げ、厨房の方へ消えていく。今頃新しく紅茶を入れ直し、何かしらの毒でも入れているのだろう。今しかないと、私はポケットに滑り込ませた薬をとる。包み紙に入っているのは、白い粉だ。白い粉と言っても麻薬とかなんてものではない。いつかの為にと用意された解毒剤だ。それを私は口の中に含ませる。その直後、新たな紅茶を入れたトウマ君が戻ってくる。


「お待たせ、さぁどうぞ」


 口の中に薬があるため、無言で手に取り紅茶を飲む。


「っ!」


 思った通りであった。少し、薬以外の酸味がある。明らかにおかしい。その直後体が途端にしびれてくる。


「何、を」

「やっぱりバカな王女は助かる。おかしい味のはずなのに飲むだなんて」


 でもこうしないと薬も効果を発揮しないからね。痺れなんて直ぐに消える。演技はお手のものだ。心のなかで彼を嘲笑う。どうやら彼は本当に私をただの世間知らずのバカな王女だと思っているようだ。その方が騙しやすいし、罪悪感がわかないからいいが。


「君がはじめに紅茶を落としたりしなければ。約束の時間に遅れてしまう」

「っく。やめ...て」

「やめて?冗談じゃない。こうしないと僕の願いは叶わないんだよ。優しい王女様なら理解してくれるよね。大丈夫、その毒で死んだりはしない。明日、すべてが終わったときにまた目が覚めるだろうよ」


 偽者のトウマ君は私を憐れむような目で一瞥する。


「あぁ、もう時間がない。けど、ちゃんと飲んだよね。まぁ大丈夫だろう」


 私の様子を確認し、何かを考えてから一人、納得したように部屋を出ていく。彼が部屋から遠ざかったことを確認すると、恐る恐る起き上がる。もう既に体の痺れは消えている。手をグーパー握ってみるが、正常に動く。どうやら薬はしっかりと効いたようだ。


「一体彼は.....」


 声と姿はトウマ君に変えていたのだろう。本当の人物が誰かはわからない。でも、今の状況で疑えるのはリックしかいない。しかし、こんなまどろっこしい真似をするだろうか。彼だったらさっさと私を殺すはずだ。ここまでする理由がない。


「それよりも、本当のトウマ君はどこに...」


 あれが偽者だったのなら本当のトウマ君はどこかにいるはずだ。無事でいるといいのだが。私は彼を探すため、気配遮断の能力を使い、食堂から出たのであった。



いつも読んでくださりありがとうございます。

ブックマーク登録、本当に感謝します。

拙い文章ですが、これからも頑張ります!

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