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閑話

時系列的には41より後、42よりは前です

 

「僕に紅茶の入れ方を教えてください!」


 夕食のあと、食堂でルシアンに土下座をしているのはトウマ君。事の発端は昼のおやつの時間にさかのぼる。


 ―――――


 練習を終えてくたくたになったある日のお昼。ルシアンが、カップケーキを作ってみたと言うので、私たちは食堂へ向かっていた。疲れた体には甘いものが一番だ。


「久しぶりにカップケーキなんて食べるなぁ」


 甘いもの好きなトウマ君はすっかりルシアンの作るお菓子の虜になっていた。という私もそうなのですが。セシルも作りやすく、美味しいのでよく作ってくれていた。チョコチップにドライフルーツが入ったもの...。様々なバリエーションに期待を膨らませながら、食堂の前まで来る。


「いらっしゃい、練習お疲れ様」


 扉を開けると、甘い匂いがフワッと広がる。紅茶を用意していたルシアンがこちらにきずく。


「うわぁ!かわいい!」


 机の上に並べてあるカップケーキのかわいさに思わずキュンとなってしまう。私の想像通り、様々なバリエーションのケーキがある。どのカップケーキから食べようか思わず迷ってしまう。


「さ、冷めないうちに召し上がれ」

「いただきまーす」


 席につくと、淹れたての紅茶が私の前に置かれる。転生してからというもの、私は毎日紅茶を飲んでいる気がする。それも入れ方が上手い人のばかりを飲んでいるため、今ではすっかり紅茶にはまっている。かと言って自分で入れるのはまっぴらごめんだが。

 しばらく、楽しくおしゃべりしながらカップケーキに舌鼓を打っていると、トウマ君が紅茶をじっと見つめていることに気がついた。


「あれ?美味しくなかった?いつも通りのはずだったんだけど...」


 ルシアンは不安そうにトウマ君の顔を覗きこむ。


「い、いえ。不味いわけではないです。むしろ凄く美味しいです。ただ、」

「ただ?」

「僕にも入れられないかなって」

「え?」


 純粋な、キラキラとした瞳で訴えかけるトウマ君。なんか思ってたのと違うという顔のルシアン。


「自分で紅茶を入れられるようになって損はないかなって」

「ふーん...いいよ。やってみたら?」

「ありがとうございます!...えっと入れ方を教えてくれませんか?」

「そうしたいんだけど実は用事があって...。でも大丈夫。簡単だよ」

「うーん...」


 彼はトウマ君に紅茶のポットと茶葉を渡すとどこかへ消えてしまった。


「ま、まぁとりあえずやってみたら?私飲んでみたいなぁ」

「日本のお茶の入れ方と要領は同じなのかな...」

「そうなんじゃない?」

「え?日本茶知ってるんですか?」

「い、いやお茶だったら入れ方はどれも同じかなって」


 危うく変な誤解をさせるところだった。私が転生者というのは彼には秘密だ。もちろん日本茶なんてものは知らないですよ?

 それはそうと横ではトウマ君が一生懸命に紅茶を準備している。横目でちらりと様子を伺いつつも私はカップケーキを食べていく。


 それからえらく時間がかかったような気がするが、ようやくできたらしい。カップに注いでくれるが....


「なんか...濃い、ね」

「そ、そうなんですよ。ちょっとやり過ぎちゃって」

「ま、まぁ味はわからないしね。いただきまーす」


 そう言って、入れたての紅茶を一口飲んでみるが。


「っ。にっっっが」


 完全に味が死んでいる。普通は喉を潤す為のものだが、逆にパサパサするような感じがする。後味は最悪だ。思わず、素直な感想が口から飛び出す。王女とはどんなに不味いものでも笑顔で食べなければならなかった。そして料理人には『美味しかった』と嘘でも声をかけなければいけなかった。しかしここまで素直な感想が出たのは本当に久しぶりだ。


「え?そんなに...。にっが」


 トウマ君も一口飲んでみるが、顔を見たらすぐわかる。凄く不味いって顔をしている。嫌いなものを見つめるように、少しそこに悲しみを混ぜたような目で紅茶を見つめている。


「誰にだって失敗はあるよ。もう一回くらいチャレンジしてみる?」

「そうします!」


 適当に励ましてチャレンジをさせたのだが...。それから何回繰り返しただろうか。薄かったり、味がいいのに香りはない紅茶だとか...。手つきは馴れてきたのにルシアンと同じような紅茶は入れることができなかった。そして私はもう紅茶はしばらくいいかなと思うほど飲んだ。


 お陰で私は夕食をあまり食べることができなかった。


 そして彼はルシアンに紅茶の入れ方を夕食の後にしっかりと教えてもらったようだ。




いつも読んでくださりありがとうございます。


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