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「僕をつけてたの?」
「たまたま見つけてな」
「まったく、趣味が悪いなぁ」
オリヴァーお兄ちゃんが険しい顔で聞いているのにも関わらず、いつの間にかルシアンの顔にはいつもの微笑みが戻っている。しかし、今この状況ではかえって恐ろしく感じる。二人の間に流れる空気は一瞬にして不穏なものに変わっていく。そもそもルシアンは、問い詰められているのに、怪しまれているのに、悪びれた素振りは一切ない。二人の雰囲気は全く噛み合っていない。
「誰に会ってたか知りたい?」
そして何を隠しているかわからない微笑みのまま、何故か私の事を見てくる。いったい誰だというのか?私に関係がある人なのだろうか。緊張で鼓動は早くなる。
「はい、これ」
「これは...」
そして何故か私に何かを渡してくる。渡されたのは小さく折り畳まれた紙であった。裏を見ても差出人は書いていない。少し不安に思うが、オリヴァーお兄ちゃんもコクりと頷いたので開いてみる。
「...っ!セシル...」
書かれていた字を見てわかる。日本語で手紙は書いてあり短く、こう書かれていた。
――――
明日の健闘、お祈りしております。
またレティア様と共に過ごせる時間を楽しみにしております。
――――
「なぜルシアンがこれを?」
「ある時、店に来てね。君の事をよろしく頼むって」
「そっか...。そうだったんだ」
ずっと私の事を大切に思ってくれていたセシルに、改めて心の中で感謝をする。思えばこの世界に転生してからセシルとはずっと一緒だった。私の何よりも信頼している人の一人である。
「今までもずっと密会してたの?」
「まぁそうだね。黙っててごめんね。もしセシルと君が深く関わってるって知ったらリックに狙われてセシルも危ないだろうし」
「そうだね...。というか今も大丈夫かな?セシル、リックに脅されたりして」
「それはないから安心して。セシル、意外と強いよ」
「それはそうだけど」
私が授業などをサボると必ず叱ってきたセシル。先生よりも両親よりも何より、セシルが一番怖かった。私を何よりも大切に思ってくれていたからだろうが。セシルがいてくれたおかげで今の自分がいるのだと、本当に彼女には感謝しかない。
「さ、これが僕の密会の真実。別にそこまでヤバイことじゃないでしょ」
ね?、というようにオリヴァーお兄ちゃんを見つめるルシアン。実はリックと繋がってたかもなんて不安は嘘のようだった。味方同士の協力は嬉しい限りだ。
オリヴァーお兄ちゃんも納得したらしく、それ以上は何も言わなかった。
「それより、クッキー冷めちゃってるよ。紅茶は入れ直せばいいけど。余ったクッキーはお二人で食べてね」
「はーい」
どうやらトウマ君は自分の分だけさっさと食べたらしく、お腹いっぱいになったのか少しウトウトしている。私たちの話もちゃんと聞いていたか、怪しいところだ。誤解も解けたところで、私は冷めてしまったクッキーを入れ直した紅茶と共に食べた。
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