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「あれ?こんなところでなにやってるの?」
「ルシアン...」
黙ったままの二人に話しかけてきたのは、ルシアンだった。ヒラヒラと手を振りながらこちらに近づいてくる。
「ちょっと落ち着かなくて」
「わかるよ、その気持ち。正直俺も不安でいっぱいだし」
「言いつつもあんまり不安が顔に出てませんよね」
「まぁ信じてるからね。君たちの事を」
『信じてる』と言われても何故か『ありがとう』とは言えずにコクりと頷くことしかできなかった。やはり、何か嫌な予感がする。普通私がリックの立場ならあのときに私たちを殺すはずなのに。ダメになってしまう事を考えると、もう止まらなくなってしまう。次々と嫌な展開が頭の中で浮かぶ。
「失敗しそうだなんて考えちゃダメだよ。絶対にうまく行くって考えないと」
こちらの不安を読み取ったのか、笑顔で語りかけてくる。
「そうですよ、絶対にリックを倒すんです」
「トウマ君も...ありがとう」
自分を信じてくれる人がいる。それだけでも心は安らぐ。私の中の緊張は自然と溶けていった。
「それより...」
「ん?」
ふわりと肩に温かいものがかけられる。
「上着!?」
「いや、寒そうに見えたから」
「べ、べべ、別に、寒くなんか」
「明日は大事な日なんだから。風邪を引かれちゃ困るよ」
だからといってこの状況は...。私これでもあなたが仕えるオリヴァーさんのお嫁さん(予定)ですよ。と言いたいところだが、少し寒かったのは事実。バレなければいいかとそのまま借りることにした。もし、バレても私は悪くない。うん、彼が勝手にしたことだ。私は、頭の中で納得させる。
「そろそろ屋敷に戻りませんか?」
しばらくすると、トウマ君が声をかけてくる。確かに、これ以上ここにいても、もうすることはない。
「そうね。戻りましょう」
「帰ったら何か作ろうか?お腹、空いてない?」
ルシアンに提案され、改めて朝から水以外、何も口にしていないことに気がついた。言われてみて、お腹がすいていたように感じる。
「さすが!ルシアンさん!僕、ザッハトルテ食べたいです!」
この発言を待っていたとばかりに、トウマ君が注文をする。彼は大の甘いもの好きだ。お腹に溜まるようなものではなく、お菓子を頼む所が少し可愛らしく感じる。
「うわー、すごいめんどくさい」
「じゃあ、私はカンノーロ!」
「ええーそこは一緒のにしといてよ」
ブーブー言っていても、なんだかんだいって注文したものを作ってくれなかった事はない。こうした何気のない会話に自然と笑みが溢れる。最近は空気がはりつめていたからだろうか、このふとした瞬間にとても幸せを感じる。
「ルシアンさんの料理、美味しいですもんね。というか、なんか他の人が作るのって美味しく感じる」
「だよね、ルシアンの料理って美味しいよね」
「誉めても何も追加しないよ~」
素っ気なく言っても私は知っている。顔には出ていないが内心は喜んでいて、さりげなくクッキーとか追加してくれる事を。
「早く帰ろう!」
「あ、待って」
走って帰るトウマ君を追いかけて、私たちは屋敷へと帰った。
いつも読んでくださりありがとうございます。
もう10月も半分だということにショックを受けています。1年短い...




