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剣術なんてやったことがない、と言っていたが本当にそうだろうかと疑いたくなるほどだった。
「...」
「いやー、疲れますね」
笑って話しかけてくるトウマ君には悪いが私の内心は少々複雑であった。
トウマ君、ものすごくうまいのだ。
正直、少し恨みたくなるほど。これがチートと言うものか。なんなら、もうオリヴァーお兄ちゃんと肩を並べるほど。いやいや、オリヴァーお兄ちゃんは魔法の方も天才のなんでもできる超人なんで、私の将来の夫の方が強いんですけどね。でも、少し悔しい。私はなんも出来ないゲームの中の悪役王女、ゲームの中ではない今はサヴィニア国の第一王女という身分がせいぜいのただのモブ。特別な力なんて、今は何一つない。
だから、とても羨ましいのだ。彼が。
少し恨みがましく隣で休憩する彼を見ると、彼はそれでも嫌な顔をせず、むしろ私を心配してくれた。
「どうしたの?体調でも悪かったりする?」
彼の純粋な返しに、逆にこちらが罪悪感を抱くほどであった。
「少し、疲れちゃって。元気なのが羨ましいなぁ、なんて」
「そういえばずっと部屋にいましたもんね。本当にもう体調は大丈夫何ですか?朝は元気そうでしたけど、実はまだ結構しんどかったり...」
「いやいや、全然。まぁずっと部屋で寝たきりみたいな感じだったので筋力は落ちてるのかな。トウマ君はそれに比べてすごいよ」
部屋で筋トレとかをしていたということは伏せておこう。筋トレとかを続け、彼よりも早く剣術を始めたということを自覚してしまうと、彼よりもすでに劣っている自分を情けなく思うと同時に、彼に嫌な感情を持ってしまうから。彼を恨んでしまいそうな気持ちを押さえるためにも、一旦自分の努力を頭の隅に追いやった。
「この世界に来る前、運動する団体って言えばわかるかな?そんなのに入ってたので、体力はあるし、結構運動神経良い方だと思うんですよね...あ、前に陸上部に入ってるってこと知ってるって言っていましたね」
そう言ってフニャリと彼は笑う。前半は自慢話だが、嫌な気は一切しない。むしろさっきは恨んでしまいそうとか言っていたけど、全然そんなことはないのかもしれない。
「おい、そろそろ休憩は終わりだ。練習に戻るぞ」
「はい!オリヴァー先輩!」
「ん?」
いつの間にか先輩呼びになっている事に驚きというか、苦笑しつつも練習に戻っていった。
それからなんやかんやあって、遂にリックとの戦いの前日になった。
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