40
「おはようございます、レティアさん」
「おはよう!」
朝、朝食を食べに食堂に向かっていると廊下でトウマ君と出会いました。
昨日あれから、私はオリヴァーお兄ちゃんに話してはダメとかうんちゃらかんちゃらした馬鹿げた約束の撤廃を求めて、見事にこうやって話せるようになりました。ただただ嬉しい!これからは罪悪感でストレスがたまることもない!
やっぱり挨拶とか何か会話するとかいいことだな、と改めて思った。
二人で他愛もない会話をしながら食堂に入ると、オリヴァーお兄ちゃんと目が合ってしまった。
「お、おはよう。オリヴァーお兄ちゃん」
話してもいいと許可を得たのに、何故かその場面を見られてしまったせいか、声が少し小さくなってしまった。彼はいつも通りの顔だし、何故だろう。
少し不安になり、その場にたちすくしてしまう。
「...はやく座ったらどうだ?」
「え...」
「何かおかしな事言ったか?」
「い、いいえ。何でもないです」
言われて、自分の席へと座る。
確かに認めてもらったのだから大丈夫なのだ。目が合ったときにできた少しの不安は杞憂に終わった。
が、何故か食事中でも少し不安になっていた。何が理由なのかは自分でもよくわからない。おそらく、気まずくなっているだけだろうと自分で自分を納得させる。
食事も終わり、紅茶を飲んでいる時に彼は言った。
「今日からはレティアとトウマ。二人に剣を教える」
「えっ!?」
紅茶を机に置いた時に聞いてよかった。あらかじめ、そんな話もあるかもと昨日うっすら考えていたが、実際に言われたら少し驚く。危うく紅茶を落とすところだった。一国の姫として、そんなだらしないことは許されない。もし、あわてふためいて落としていたら一生の恥になっただろう。
「僕ですか?できますかね...?あ、いや、やりたくないって事じゃないですよ。足を引っ張らないか心配で。でも、何もやらなかったらそれはそれで何の役にもたてないか」
しかし、彼はさすがに驚いたようだ。が、それもまぁ当然だろう。いきなり剣をやれだなんて。それも戦いまであと1ヶ月もないというのに。
「だ、大丈夫。転移者なんだから、きっと何か特別な力があったりするし」
「特別な...力」
言ってから少し後悔をした。私の言い方では、彼の不安を大きくさせるだけだ。もし、できなかったら、そんな力が使えなかったらとそんな不安を。しかし、だからと言ってまたここから何かフォローしようとしても、逆に不安にさせてしまいそうな気がする。
結果、私たちは黙りこんでしまった。
が、またしても沈黙を破ったのはオリヴァーお兄ちゃんであった。
「大丈夫だ。自分で言うのもなんだが教え方はうまいはずだし、君には素質がありそうだ。きっと鍛えればすぐに強くなる。魔王と呼ばれる私が保証するのだから間違いない」
「オリヴァーさん...」
オリヴァーお兄ちゃんが、人を褒めるのが上手かったとかそういうのは置いておいて、何故か二人で別の世界にいるような感じやめてもらえませんかね?いや、まぁ私のフォローの仕方が不味かったのは認めますけど。
トウマ君はオリヴァーお兄ちゃんにキラキラとした視線を向けているし、オリヴァーお兄ちゃんもトウマ君に優しい眼差しを向けている。完全に二人だけの世界。私が入る隙間もなかった。
「早速、今日から始めようと思うのだが大丈夫だろうか」
「是非、お願いします。オリヴァーさん、いや、オリヴァー先生!」
『うん、いや、だから二人だけの世界に入るのやめよう。私がどうしていいかわからなくなる』
「では、準備が終わったら庭に来てくれ」
「はい!」
元気よく返事をしてトウマ君は部屋を出ていってしまう。私はその光景を呆然と眺めているだけだった。
「レティア、君も準備をしてきたらどうだ?」
「え?あ、そうだよね」
残っていた紅茶を飲み干し、私は食堂を後にした。
いつも読んでくださりありがとうございます。




