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「オリヴァーお兄ちゃんとトウマ君...?」
雪が舞っている外ではオリヴァーお兄ちゃんとトウマ君が何やら話していた。それも親しげそうに。私は思わず二人を凝視めてしまう。もちろん、二人には気づかれない程度に。
『こんなに寒かったら風邪をひいてしまう』
なんて思いながらも、だからといって部屋に入ろうなんて二人を誘うわけでもなく、ただただ3階の自分の部屋から眺めることしかできなかった。よく見れば、彼らの黒髪には雪が薄くつもり、少し白くなっていた。二人がそこまで話すことなんてどのようなことだろうか。まぁ、私が伝えようとした真実を彼が、オリヴァーお兄ちゃんが伝えてくれたらいいなと思った。
窓から少し身を乗り出して下を眺めると、少しだけ話し声が聞こえた。私はばれないようにそっと、彼らの話に耳を傾けた。
「じゃあ、レティアさんってあなたの彼女だったんですか!?」
「!!??」
いきなりの発言にビックリして、声をあげそうになった。声なんて出したら二人にばれてしまうかもしれない。
『ど、どういうこと?』
「強い人ですね。普通一国の姫なんて言ったらか弱いイメージなのに」
「確かにあいつは強い。しっかりしてるし、優しいし。自慢の妻だ」
「.....っ!!??」
へ?いや、彼女からつ、妻って。ランクアップしてますよ。ついに堪えきれずに少し声を漏らしてしまった。しかし、幸いにも二人は気付いていないようだった。
「じゃあその幸せな二人を守るため、僕も全力でサポートしますよ」
「あぁ、助かる」
「国を滅ぼすだなんて絶対に許せない。僕たちで、ぜひ平和な世界にしましょう」
話の内容を聞くに、どうやらオリヴァーお兄ちゃんはトウマ君に事実を伝えたようだ。少し心の重荷が減った気がした。二人は気があったようにガッチリと握手をしている。
『二人の仲が悪くなくてよかった』
最初の挨拶の時はオリヴァーお兄ちゃんはトウマ君に対してほとんどなにも言ってなかったから、トウマ君が嫌いなのかと思っていた。しかし、それは杞憂だったようだ。
私もそろそろ部屋が冷えてしまうと窓を閉じようとしたときだった。
「それよりも雪なんて、久しぶりに見ました...ってレティアさん!?」
空を見上げたトウマ君と目があってしまった。
「あ...」
何も言えずに石のように固まってしまう。そこまでヤバイ話を聞いた訳じゃないのに、なんでだろう。してはいけないことをして、それがばれてしまうと体が固まる。
しばらく見つめあって、先に口を開いたのは彼の方だった。
「最近、部屋に籠りきりでしたが、大丈夫ですか?」
批判の声が来るのではないかと考えていたが、やはり彼は彼だ。盗聴されていたというのに、相手を責めるではなく気遣ってくれるなんて。
「だ、大丈夫。ちょっと色々あって」
「よかった。なんかあったんじゃないかって心配で...。でも大丈夫そうでよかったです。一緒に悪い奴、凝らしめてやりましょうね」
そういって彼はニコッと笑った。
『トウマ君が優しい人でよかった』
つくづくそう思ってしまう。
「風邪をひかないように早く中に入った方がいいですよ」と言い残して、私は窓を閉めた。
トウマ君と話してしまったけど、これくらいもセーフよね。でもやっぱりあの約束をやめるようにオリヴァーお兄ちゃんにでも言いに行こうかな...?
だいぶ冷えてしまった部屋で、私は一人考えた。
いつも読んでくださりありがとうございます。
緊急事態宣言が解除された今、第二波が来るのではないかと怯えています。




