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結局はオリヴァーお兄ちゃんに捕まってしまった。そして現在ソファの上で横抱きにされて事情を説明している。逃げ出そうにもガッチリと捕まえられているので逃げ出すことは不可能だった。
「えーっと、私実は転生者でして...。だから~そのぉ~」
冷や汗が背中をつたう。オリヴァーお兄ちゃんの顔を見ても、予想通りの顔であった。
「信じてないよね...」
『何こいつ、変なこと言ってんだ?』という顔をしている。
つらい、せっかく勇気振り絞って言ったのに。でも、まだ完全に信じられないとは言われてないため、許す限り、話すことにする。
「私はここではない別の世界に住んでました。魔法なんてもんはない世界です」
コクりとうなずいてはくれる。一応話は聞いているようだ。
「ここはその世界にあったゲームの世界なんですよ。えっと、ゲームってのはなんていうか、その世界で作られた仮想空間のようなものかな?だから所謂、本の世界に入り込んだみたいな。一応ここまで理解できた?」
「続けてくれ」
「そのゲームの中に出てくる人がトウマ様であって、すごい強い人だから助けてもらおうかなって」
「要は私の力じゃリックに勝てないと?」
ニッコリと笑って、さらに私をきつく抱き締める。まるで、自分にはこんなに力があるのだぞと思わせるように。
「く、苦しい」
「ん?なんて?」
訴えかけるように言ったつもりが、細々とした声しか出てきこない。でも、こんな至近距離で言ったんだから絶対聞こえているはず。
とりあえず、このまま潰されるのも嫌なので離せと言わんばかりにバシバシと背中を叩く。しばらくすると力が緩まる。私は背中を叩くのをやめ、息を整える。どうせきつく抱き締められるなら、もっといちゃいちゃっぽくしたかったのに、というのは心の中で言っておく。
「ごめんね、そういうつもりじゃないの。ただ、もしオリヴァーお兄ちゃんになんかあったらっていうのが怖くて」
「...」
「彼はきっと役にたってくれるよ。お願い。ダメ、かなぁ」
こうやってオリヴァーお兄ちゃんにトウマ様と一緒に戦ってって頼んでるわりにまだトウマ様がここに来るかもわからないのだが。でも、きっと助けてくれるに違いない!
「わかった」
「ほんとに!」
「ただし、君は彼と喋ってはいけない。君の半径5メートル以内に彼をいれてはならない。そして、もし私が危ないときに限り手助けをしてもらう。しかし、とどめをさすのは私。これでどうだ?」
オリヴァーお兄ちゃんが危ないときは彼に助けてもらう。とどめをさすのもオリヴァーお兄ちゃんがやる。この2つは納得。しかし、私とトウマ様が近づいてはダメ、話すのもダメというのはどうかと思う。前世の私、ガッツリトウマ様推しだったのだから。せっかくちょっと実物に会えるって喜んでいたのだ。あ、でも勘違いしないでほしいのは今の推しはオリヴァーお兄ちゃんだということ。彼ではないですよ?
「もし、私とトウマ様がしゃべっちゃったら?」
「まず、そのトウマ様呼びをやめろ」
「はい。で、どうなるんですか?」
「殺す?」
「.....え?」
「彼に君を奪われないようにね」
物騒だよ!殺すだなんて、酷すぎる。それこそ悪役、ラスボスじゃないか!そもそも、彼はルチアに一目惚れ設定だから大丈夫だよ!それに彼の好みはか弱い女の子だから、私みたいなゴリラ...ううん、強い女の子は好きじゃないと思う。
「レティア、君は美しすぎるから。もし彼が君を好きになったと知ったら嫉妬でおかしくなる。いや、そもそも既に君の口から他の男の名前を聞いたときに既に嫉妬してるんだ。ねぇ、レティア。君は誰のもの?」
久しぶりだ。この感じ。嬉しいけど、素直に喜べないよね。こんなこと言われても。
「オリヴァーお兄ちゃんが一番だよ」
「本当に?」
「もちろん。誓って」
「誰に誓うの?」
「もちろん、オリヴァーお兄ちゃんに誓って」
うわー。これでもう、彼から逃げられません。ごめん、前世の私の他の推したち。浮気はもう絶対に許されません。浮気したら最後、私はどうなるのか。想像しただけでも恐ろしい。二次元の人なら彼氏がいてもまだ推してていいかなと思っていたが、無理そうだ。
「よくできました。じゃあいいよ。でも私の言ったこと、絶対に守ってね」
「もちろん。ありがとう」
やっと解放されて、オリヴァーお兄ちゃんが部屋から出ていくと、私は紙とペンをとりセシルに返事を書いた。
もちろん、彼に協力を頼もうということを伝えるために。
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