閑話
入れる予定はもう少し先だったのですが、先に入れます。
「お姉ちゃん、これどうやって作ったの?」
お庭でルチアとお茶をしていた少し暖かい日、テーブルの上にある見たことのないお菓子に彼女は興味津々だった。
「私が作ったわけではないわ。作り方を教えただけよ」
せっかくだから自分で作ろうかと思ったが、使用人や料理人たちに『絶対にお止めください』と言われてしまったので、しぶしぶやり方を教えて私はそれを見ているだけだった。
そして作ったのは
「“アイス”なんて今まで聞いたことなかった。でも冷たくてとってもおいしい」
「お礼はアイスを作ってくれたこの城の優秀な料理人たちに言って」
「でもお姉ちゃんもすごいよ。私なんて絶対にこんなの思い付かないもん」
まぁそうでしょうねぇ。何せこの世界にはないお菓子だったのだから。
この世界での作り方はとっても簡単。砂糖や牛乳はこの世界にもあるので、材料をすべて混ぜ、氷魔法を使える人に頼み、凍らせれば完成だ。
会話を楽しんでいたら、すぐにアイスはなくなってしまった。
「あーあ、おいしかったのに」
ルチアは残念そうに空になった皿を見つめて言う。
「また作るわ」
「えー、今すぐには無理なの?」
「体を冷やすからやめた方がいいわ」
前世で夏の暑い日にアイスを食べ過ぎて、お腹が痛くなって辛い思いをした私にはわかる。アイスの食べ過ぎは禁物だ。それにルチアは体が弱い。すぐに体調を悪くしてしまうかもしれない。
「どうしても?」
上目遣いでこちらを見てくる。
ズキリ
心が痛む。いいや、でもここは心を鬼にして。もしここでもうひとつあげて、ルチアが体調を崩したらどうする。
でも私は昔からルチアの頼みには弱い。私が悪役で、彼女がヒロインだからという理由もあるかもしれないが。
「う、うーん」
「お母様には内緒にするから」
「え、えー」
キラキラ
目を輝かせてくる。
「...体調は崩さない?」
「うん」
「絶対に?」
「絶対!」
負けた。結局私はセシル用に作ってもらったやつをルチアにあげることにした。先程のもそこそこ量が多かったが、大丈夫だろうか?
『大丈夫だよね。体調崩さないって言ってたし。でもちょっとヤバイ感じもするかも...』
しかし、まぁこういうときの感は的中するのだ。
「レティア!」
「はい、お母様!」
母が久しぶりに大きな声を出したので、驚いた。
「ルチアが体調を崩したのよ。原因はあなたの“アイス”とか言うお菓子らしいわね」
「げっ...」
「罰として明日のおやつはなしね」
「そ、そんなぁ」
ルチアは体調を崩さない!と言っていたが、案の定体調を崩した。
結局次の日、私の分のおやつは出なかった。母はルチアには甘い。誰か私を甘やかしてくれ!
しかし部屋に帰ると
「レティア様、クッキー焼いたので良ければ食べますか?」
「っほんとに!?食べる!」
セシルがクッキーを焼いて待っていてくれたらしい。いい匂いが辺り一面に漂っている。
昨日、おやつ抜きにされたと私が部屋でわめいたからだろう。
彼女の分のアイスをとってしまったのに...なんて優しいのだ。
「一緒に食べましょうか」
「うん!」
侍女のセシルだけは私に甘かった。
今回も読んでいただきありがとうございます。




