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前回に引き続き、今回もオリヴァー視点となります。
「なっ...」
それ以上、声が出なかった。出せなかった。私の中にじわじわ生まれてくる感情がなんなのかはわからない。ただ、名前をつけるとしたら絶望が一番近いだろう。だって私の眼下に広がる町は今―――――
「燃え、て....いる?」
いつもなら暖かい部屋の明かりが窓の外に溢れて、幻想的な美しい風景が広がるはずが、別の意味で明るくなり、どの家もぐちゃぐちゃに崩されている。
敵襲か?一体誰が、どんな理由で、この国を襲っているのか。聞こうと先ほど私の部屋にきた兵士に聞こうとしたが、すでに意識はなくなっていた。
とりあえず私は急いで、この城にある秘密部屋へ向かう。
「オリヴァー、無事で良かった」
部屋には両親とロゼッタ、ロゼッタの侍女と数人の使用人がいた。家族が全員無事だったのは嬉しかった。家族がいないとなれば、私は発狂して自殺してたかもしれない。
「お兄ちゃん、私たちこれからどうなるの?」
ロゼッタは目に今にも零れ落ちそうなほど涙を浮かべ聞いてくる。私にも原因はわからない。だからだろうか、今はロゼッタの純粋な視線がただただ苦しい。ロゼッタには悲しい思いをしてほしくなかった。
ロゼッタ――――私の3つ下の妹。両親が政治で忙しいため、私がよく相手をしていた。自分がなかなか相手にされずに悲しかった事をロゼッタには体験してほしくなかった。かと言って私は愛されなかった訳ではない。夕食は全員でとっていたし、初めて魔法を使ったときは褒めてくれた。ただ、それでも幼い私は寂しさを覚えた。少々、わがままにさせてしまったかもしれないが、それも彼女の愛嬌だ。それにまだ子供。わがままが許される年なのだ。
「ごめんよ。私にもわからないんだ」
そう言うと、ロゼッタは目に浮かべていた涙をポロポロとこぼし始めた。そうだろう、辛いよな。しかし、今はどうすることもできない。相手がどれくらいの実力者かわからぬため、下手に戦って家族みんな死ぬよりも今はこの秘密部屋で息を潜めることが一番だろう。
それから重い沈黙が続いた時、
ガコン
大きな音がすると部屋の扉が閉まる。そして外から声が聞こえてきた。
「皆様、とうとう奴がこの城まで来ました。どうか耐えてください。皆様どうかご無事で。今までありがとうございました」
聞こえてきたのはこの国の騎士団長の声。『今までありがとうございました』だなんてまるでこれから死ぬようではないか。やめてくれ。これ以上傷つかないでくれ。
それよりもこの城まで攻めてきたとは。まさか、城の前にいた兵士は皆やられてしまったのか。いいや考えたくない。
「父上、何故このようになってしまったのかわかりますか?」
怒りは行き場所をなくし、父上への言葉に入ってしまった。
父はがっくりとうなだれさせた頭をあげ、顔をこちらに向けてきた。父の顔はいつもよりやつれていた。父は私の顔をしばらく見つめると、また下を向き呟いた。
「すまない。私にもわからないのだ」
すまない、すまないと父は繰り返す。ああ、この怒り、腸が煮えくり返りそうなこの怒りはどこにぶつければいいのか。自分が悔しくて、不甲斐なくて私も涙が溢れてくる。
沈黙は長い間続き、ロゼッタの泣きじゃくる声だけが部屋に響いていた。
本日も読んでいただきありがとうございます。
千葉の方では停電が続いているようですが、一刻も早い復旧を願っております。
皆様も台風にはお気をつけください。




