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ルシアンからのメモの裏には丁寧に書庫までの地図が書かれていた。応接室に行くのに10分ほどかかった私にとってはありがたい配慮であった。
「書庫は...あった」
城の隅の方にあった書庫。地図がなかったら応接室の時の倍、時間がかかっていただろう。周りのオーラ、ひっそりした感じはいかにもだ。
扉を開けようとするとギギッと大きな音がした。かび臭いにおいがする。だいぶ長い間、開けられていなかったのだろう。これは油でもさした方がいいかも...。そんな方法しなくてもオリヴァーお兄ちゃんに言ったら直してもらえそうだが。
書庫の中は薄暗く、ほこりっぽかった。ついこの間城を掃除したが、どうやら書庫の掃除はやられていないようだった。書庫の中にソファなどあるが、やはりほこりっぽい。本は部屋で読むことにしよう。
書庫の中には国の歴史書や他国語の本、帝王学の本、マナーの本、魔術入門や剣術極意といった本まで。幅広く揃えられている。しかし、勉学系の本を読みに来たわけではない。そのような本はサヴィニアにいるときに嫌と言うほど読んだ。それに見たことのある本だっていくつかある。しばらく本棚を探していると私の目当ての本が見つかる。
「そうそうこういうのが読みたかった!」
私が手にとったのは城下町で有名な恋愛物語。他にもパラパラとめくり、面白そうな本を3冊ほどとり、書庫から出る。
基本的に王族や貴族は物語を読まない。読むほとんどは勉学系の本だ。しかし、私は前世で物語をよく読んでいたので今でもたまに読んでいた。もちろん、両親や教育係には内緒。セシルによく買ってきてもらっていた。
部屋に戻り、紅茶を用意する。前世のように『あっという間にすぐに沸く』物があればいいが、そんなものこの世界に存在しない。こうしてみると改めて、前世の便利さが身にしみてわかる。
紅茶が用意できたので早速一冊目の本を読んでみる。数ページ読んだところで何かヒラリと紙が落ちる。字は薄れているが、どうやらメモのようだ。
ロゼッタへ
君が欲しがっていた本を買いました。
私にも城に帰ったら読ませてください。
あまり両親や城の者を困らせないように。
体には気を付けてね。
オリヴァー
『オリヴァーお兄ちゃんのメモ?それにロゼッタって...』
朝からの不快感はこれの事だろうか?それに前もルシアンがポツリと言っていた気がする。でも『城の者を困らせない』ってことはもしかしたらオリヴァーお兄ちゃんの兄妹?後で聞くことにしよう。私は本の続きを読みはじめた。
3冊の本はどれもおもしろく、いっき読みをしてしまった。おかげでもうお昼を過ぎておやつの時間だ。お腹が空かないのは紅茶を飲んでいたからだろうか?もうかれこれ5杯は飲んでる。
外は朝から薄暗く、雨が降りそうだったがついに降り始めたようだ。窓にポツリポツリと雨があたる音がする。外が少しひかる。どうやら雷もなっているようだ。こういう日は少しワクワクもしてしまう。何であろう?一種のスリルみたいなものだろうか?ついつい気になってしまってカーテンを開け、外を見てしまった。
「ヒッ」
外にはたくさんのサヴィニアの兵士がいた。私は急いでカーテンをガッとしめる。もしかしたら見つかったかもしれない。一瞬、誰かと目があった気もする。
『待って、これって明かりついてたら逆にばれてるんじゃ...。とりあえず、明かりを消そう』
そうして私は部屋の明かりをすべて消す。しかし、直後、私のこの行動がバカだったと後悔する。
「おい、そこの部屋、今明かりが消えたぞ」
「えっ!?う、嘘」
自分が部屋の明かりを消したせいで外の兵士にばれてしまった。




