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「うぅ...いったぁ。ここ、どこ?」


 私は痛みを無理して意識を浮上させる。まだぼんやりとしながらも周りを見渡すと月の光に照らせれて輝く不気味なオブジェクトがいくつかあった。


「ひっ」


 あまりの驚きにぼんやりとしていた意識が覚醒する。こんな不気味なものじゃなくてきれいな女神像とかだったらよかったのに...。そう思いつつも私は先ほどの記憶をたどる。


「はっ、魔王城、もしかしてここって魔王城!?」


 どう考えてもこの雰囲気は魔王城そのもの。成功したかもと喜びつつ、これからのことを考える。セシルに別れ際に渡されたノートがあることを思い出して周りを見ると1冊のノートが転がっていた。大丈夫、これさえあれば攻略なんて余裕っしょ。そう思ってノートを開く。


「...アレ?」


 数ページパラパラとめくってみるがどうもおかしい。なんだこのノート。セシルが私のために作ってくれたこっちの世界でも作れる日本食のレシピばっかり載っている。


「セシル...私に渡すノート間違えてるよ。」


 先ほどまでの余裕は何処へいったのやら。一転して気持ちが落胆してしまう。これから大丈夫だろうか?魔王ルートって難易度ヤバそう...。とりあえず過去のことをグダグダと言うつもりはないのでひとまず誰か人を探そうと少し恐怖を持ちつつも城の奥へと進んで行った。


 ※※※


「オリヴァー様、あの女どんどん城の奥へと進んできます。どうされますか?我々で始末いたしましょうか?」


 使用人の一人が心配そうに告げてくる。


「いい、放っておけ」


「しかし...」


「まぁまぁ、オリヴァーがいいって言ってるからいいんじゃない?それに『我らの神よ、私をどうかお救いください』って言った隣国の王女だよ。多分、オリヴァーは彼女の事が気になって...」


「ない」


「またまたぁ、ほんとかなぁ?まぁいいや、これ以上からかうと僕の首と胴体が別れちゃいそうな気がするし。」


「首と胴体を分けてみたくなったらいつでも言え。すぐにでも分けてあげよう。」


「うわぁぁ...こんな発言、もうどっからどうみても魔王でしょ。とても()()()とは思えない、それも王族だとね」


 ちょっとだけおじょくってみる。彼はどんな反応をするのか?


「そんな過去の話、今さら引っ張り出してくるものではない。」


 少しは何かしら素振りを見せるかと思ったが、さらりとかわされてしまった。


「過去って...そんな。もうあれから11年。いつ感情がなくなってこの世界を滅ぼすかもわからないね」


「まぁまだ数百年は生き地獄を味わうことになるだろう」


「オリヴァーは今でも人間に戻りたいと思う?」


「さあな、元から感情なんてもんなかったから、もうどうなっても特になんも思わないだろう」


「あの...」


 私たちが発したとは思えない可憐な声が聞こえたような気がするが、気のせいだろう。


「なんも思わないって。そんなじゃあ仇とかも...」


「あの!」


「えっ!誰?」


 あの可憐な声はやはり気のせいではなかったようだ。振り返ると、そこにいたのはつい先ほど転移してきた女だった。

 彼女は私の顔とオリヴァーの顔をじっと見つめてきた。普通の令嬢ならばオリヴァーの美しい顔を一目見れば頬を染め、猫なで声を出して近づいてくるのに、彼女は表情筋のひとつも動かさずじっと獲物をとらえようと見つめている肉食獣のような目をしていた。でも、本当の奥で何かを必死に考えているようだった。


「そこの黒髪の方が魔王様ですよね」


 先ほどの可憐な声とはうって変わって彼女は少し低い声を出して、そう告げてくる。


「いかにも。して、私に何の用だ?」


 オリヴァーが余裕ありげにそう告げると彼女は一瞬、少し苦しそうな顔をして土下座をした。そして...


「お願いします!お手伝いならするのでここに住ませてください!」


「わかった。いいだろう」


「あ、そうですよね、ダメですよね。やっぱり魔王様は一筋縄じゃいかない...ってええ!いいの?本当に?」


 相手が魔王なのにヤバい口の聞き方ををしたことも忘れるぐらいに彼女は驚いていた。というか、そもそも彼女が魔王である彼を怖がっていたかすら謎だが。


「そんなに驚くことか?別にこんなに広い城だ。一人増えたところで問題はない。それにお手伝いをしてくれるのだろう。最近、うちの料理人がやめたところだ。ちょうどいい、住むところを提供する代わりに料理人になれ」


「うわぁ、むちゃくちゃ。こんな隣国の箱入りの王女様が料理人になんて...ゴホン。じゃなくて君、無理だったらやめていいよ」


 正直、こんな女の子、それに王族として育った子に料理なんてできないだろうと思った。できたとしても丸焦げになっちゃいました、というのがおちだろう。


「大丈夫です!こう見えて意外とできたりしますよ。元王族だってなめないでいただきたいですね。」


 彼女は自慢げな顔をする。それでもやっぱり僕は不安な気持ちがした。


「よし、決定だ。ルシアン、彼女を部屋に案内しろ」


「ハイハイ、了解しましたよ。さ、いきましょうか、きれいなお嬢様。」


「ええ。」


 ※※※


 彼らが部屋から出ていくと魔王だけがただ一人、その場に残された。


「レティア...君は今でも私のことを覚えていてくれているかな。」


 魔王はそうポツリと呟くとスッと姿を消した。



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