17
「ここは応接室です」
外から聴こえてきたのはルシアンの声だった。口調からして、サヴィニアの兵士を連れてきているのだろう。
「少しこの部屋をお調べしても大丈夫でしょうか」
「はい」
すると、部屋を調べているのか、ガサガサと外から音がし始めた。私はいつかバレるのではないかと心臓がバクバクだ。
「大丈夫だ、レティア」
「え?」
オリヴァーお兄ちゃんが私をギュッと抱き寄せ、私はオリヴァーお兄ちゃんの腕の中にすっぽりと収まってしまった。つまり、抱き締められている。オリヴァーお兄ちゃんだとわかった状態で抱き締められると他の意味で心臓がバクバクする。
「ちょっ!な、何するの?」
「大丈夫、大丈夫。ばれないから」
オリヴァーお兄ちゃんには私が不安がっていることがわかるらしい。でもそのお陰で私は少し落ち着いた。
「変だよね。自分の国の兵士なのにこんなに怖がるだなんて」
「そんなことはない。誰でも怖がることの1つや2つあるだろう。現に私だって、レティアが他の男のものになったらと考えただけでとんでもなく怖くなる」
『うん、いつものオリヴァーお兄ちゃんだ』
でも、そのお陰で私は少し落ち着くことができた。
しばらくすると、彼らは調べ終わったらしく「失礼しました」と言って部屋から出ていく。
「いなく...なった?」
「そのようだな」
「よかった...?」
部屋から出ようとするが鍵がかかっていて開かない。さっき、確かにオリヴァーお兄ちゃんが内側から鍵を閉めたように思うが...。ガチャガチャと扉を押していると後ろからオリヴァーお兄ちゃんの笑い声が聞こえた。
「ちょっと、笑わないでよ」
「レティアが必死になってるのが面白くって」
オリヴァーお兄ちゃんは目尻に涙を浮かべて笑っている。
「面白いって...」
「私はここで1週間近く閉じ込められたままだった」
「え」
「わずかな食料をとってきてここで待っていたのだが、家族がここへ入ってくることはなかった」
オリヴァーお兄ちゃんは悲しげな目をして話す。
「シーネスト国が滅びた日の話だよ」
「そう...」
「いつか...ちゃんと知ってほしい...。これは私のわがままだろうか」
確かにつらいこと、つらかったことは誰かに話したほうが楽になる場合もある。しかし、話したことによって当時の事件を思い出してつらくなってしまう場合もある。
でも私は...知りたいのか、知りたくないのか、よくわからない。
「ごめんね、こんな話」
私は首を横にふる。
「レティアが知りたいって言ったら話すよ。話すなって言ったら話さない」
「うん」
しばらく沈黙が続くと扉が開いた。オリヴァーお兄ちゃんの方を振り替えると、どうやら隠しレバーがあったらしい。
「え?」
「さっ部屋から出たら?」
「う、うん」
窓から外を眺めると、サヴィニアの紋章がついた馬車が帰っていく所が見えた。どうやら城を調べ終わったらしい。
自分でもホッとするのがわかった。どうやらそれほど気を張りつめていたらしい。まだお昼なのにどっと疲れてしまった。
「今日はもうゆっくり休みな。それと明日も大事をとって剣術の練習は休みにしよう」
「うん」
「とりあえず今日はもう部屋に戻りな。少ししたら軽めの昼食を部屋に運ぶし」
「わかった」
私はフラフラとしながら部屋に帰る。部屋に着くと早々にベットに倒れこんだ。そのまま私は緊張が一瞬で溶けたのか、すぐに眠ってしまった。
その日は久しぶりにサヴィニア国にいる夢を見た。
とても、とても幸せだった日の夢を...