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最初はレティアの目線で、後半はとある兵士の目線です。
最後は第3者の視点です。
「おい、この後はどこに行くのだ?」
元の自分の部屋から出るとオリヴァー様が聞いてくる。次にどこの部屋に行くかは全く考えてなかった。この城に来た目的はそもそもセシルに会ってノートを受けとる事だったから。
「とりあえず...父と母の部屋...ですかね?」
ルチアの部屋とも迷ったが、今はとりあえず母が少し心配になったので母の部屋に行こうと思った。母はいつも穏やかで私を信じて見守ってくれた人だった。セシルに会う前は、私はずっと母に甘えていた。だからこそ、母に心配はあまりかけたくなかったし、心配させてしまっている今は母の事が少し気がかりだった。
「わかった。では行こう」
そう言われて私はオリヴァー様の後を付いていく。オリヴァー様はこのお城のマップでも頭の中に入っているのかと思うぐらいに迷わず、すいすいと行っていた。サヴィニアの城はとても広くて、住んでいる私でも何十回と迷ったのに...。
これぞ魔王のチートか。
しばらくすると父と母の部屋の前に着く。今日はいつもよりも部屋の警備がしっかりとしている気がする。私がいきなり消えたせいで周りが不安になり、警備の人を増やしたのだろう。
「入るか?」
「はい」
私たちは兵士たちの間を潜り抜けて、重い扉を開け、部屋の中へ入っていった。
※※※
サヴィニア国の執務室は、現在とても苦しい空気に包まれていた。
「ねぇ、本当にいないの?」
「はい、手分けして何度も探しておりますが...」
「早く見つけなさい」
目を吊り上げ、怖い顔で兵士をしかりつけている女性は王妃様。
「どうして...お姉様...早く帰ってきて」
「レティア様はきっと見つかりますよ」
「帰ってきても、絶対に殺さない?」
「ええ、約束しますよ。だからどうか泣かないでください」
はらはらと涙を流しながらソファに座り、神官長に慰められている少女は第二王女のルチア様。
今、この城はとても混乱している。何しろ第一王女のレティア様が急にいなくなったのだから。城の門には一切出た形跡がなく、城をくまなく探しても見つからないとわかれば王妃様は焦燥にかられ、ルチア様は不安になる一方だった。
何故こうなってしまったのか。それはこの国の神官長のせいらしい。なんでも彼がレティア様は悪だと王様に教えた本人らしい。その本人といえば、今はルチア様を慰めることに必死になっている。
一体、レティア様はどこへ行ってしまったのだろうか?
「リーリャ、ルチア。一旦落ち着け。レティアはきっとすぐに帰ってくるだろう」
王様がなだめるように王妃様に話しかける。いつもの威厳はどこへやら。"母は強し"と言うとこだろうか。
「そうですよ。王様の言うとおりです。今は落ち着きましょう」
王様に続き、ルチア様を慰めていた神官長も王妃様をなだめるように話しかけた。
「元はと言えばあなたのせいでしょう、リック」
逆効果だったようだ。王妃様はさらに目を吊り上げ怒りのこもった目で神官長を見つめる。
「私は神のお告げに従ったまでで...」
「リックに悪気はなかったのだろう。いい加減許してやれ」
「レティアが許すのなら許します。でも、レティアが許さないと言ったのなら私は全権力を使ってあなたを追い詰めます」
「...」
神官長の言い訳や、王様のなだめる声も全く耳に入っていないようだった。今はもう王妃としての威厳はなく、ただ一人の娘を心配に思う母だ。
あんなに気が立っている王妃様はとても珍しい。いつも穏やかで何か失敗があっても笑って許すような方がこんなに怒っているだなんて相当レティア様を心配しているのだろう。
『ああ、早く、無事で帰ってきてください。レティア様...』
僕はただただレティア様が無事に帰ってくることを祈るしかなかった。
※※※
「シーネスト国にいるかもしれない?」
「ええ、直感ですけど」
「あの国は滅びたではないか」
「城はまだ残っております。最近では中に泥棒などの類いが隠れ家にしていると。もしかしたらレティア様は誰かにさらわれてそこにいるかもしれません」
「確かに...探してみる価値はあるな。おい、兵士にシーネスト国の城を調べさせるように言っとけ」
「かしこまりました」
リックは唇を片方だけ吊り上げニッと笑った。
これはレティアがいなくなってそれに城の者が気付いた直後のリックと王様の会話だった。