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ザ・ハングドマン  作者: 花田拓実
2/2

彷徨い

真っ白で味気のない個室。自分の首にねじ込まれた管は、今の私にとっては命綱だ。ゆっくりと起き上がり扉に視線をやると、小窓からカメラのレンズのような眼が私を監視している。 頭がズキズキと痛い。巻いている包帯の下、頭というより頭蓋骨の中、脳が痛む。自動で扉が開くと外の小窓から私を監視していた正体である、歩行型医療施設セラピアが個室に入室する。

「東崎京一様。ご気分はいかがでしょう?」

雪のように真っ白な正方形の頭にある、赤く点滅するレンズが私を凝望する。

「あまりよくない。」

足枷が私とベッドをつなぎ、下半身を自由に動かすことはできない。

「セラピア。この足枷はどうやって外す?」

「東崎様。足枷が刑具だった時代はとうの昔です。今は安全装置の役目を担っています。」

よく見ると足枷とベッドをつなぐ管とは別に、ベッド脇の机に伸びている管がある。

その管の先にある白い箱は赤く光っていて緑色に輝いていない。

「俺の体調を足枷を通じて診ているわけか。」

「その通りです。」

「まだ私は完治していないということか?」

セラピアには【未来人】の技術である【超知能】がプログラムされている。【超知能】とは99%、人間と同じ思考を持つ知能のことでそれが備わっているセラピアは東崎の問いをわざと無視した。

「食事をご用意できず申し訳ございません。食糧が届き次第、東崎様までお届けします。」

セラピアが退出すると私はまた眠りについてしまった。脳が痛むため寝ることはできないと、思っていたいたのにもかかわらず。




女性が話しかけてきた。知らない声。でもどこか懐かしい声だ。「なんだ?」とその声に問う。

「貴方の力が必要です。災害心理専攻の大学の先生である、貴方の力が。」

「そうか、私はまだ目覚めていないんだな。」

「はい。」

震えている女性の声が私の独り言に答える。

「セラピアか…」

私は声の主がセラピアだと気づいた。セラピアと話している時だけ脳が痛む。今も脳は、大きな両手のひらで強く握られてるように痛い。セラピアは、私の脳内に直接語りかけている。首の管も足枷が外せないのも、セラピアに自分の病状について、はぐらかされたのも、完治どころか生死を彷徨っているからだ。

「今 札幌セーフティ アルデバランでは食糧不足が深刻です。申し訳ございません。札幌だけではなく、北海道全体がです。」

セラピアに私は言ってやった。

「俺が目覚めても一人分の食糧が必要になって邪魔なだけだぞ。」

笑えない冗談に対しても愛想笑いをしてくれるセラピア。赤いレンズ… いや赤い眼が私を見つめる。

「川が見える。綺麗だ。川も…向こう側も…」

「そっち側に行ってはならない!」

【超知能】を持つセラピアは声に抑揚をつけ、私を引き止める。焦っているのかいつも完璧な敬語が崩れた。

「すまない。セラピア。私はもう…」

諦めた。私は絶望を目の当たりにしたからだ。最後に私は、考えた。28年間生きてきて残したものはあっただろうか?私の生きた証を誰が受け継いでくれるのだろうか?

「貴方は死ぬべきではありません!」

腕を掴まれたような気がした。手も腕もないアンドロイドに。

私は…………



「先生が目を覚ました!」

男性の声が耳に入る。脳は痛まない。

3人の学生が味気ない個室を鮮やかにしてくれた。

「君たちも生きていたんだね。よかった。」

足枷は外れ、首にはもう管はない。安心し、視線を3人の学生の後ろにやる。セラピアがアンドロイドとしての仕事をそつなくこなしていた。

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