始まり
人は絶望に、終焉に直面した時、何を想い一生を終えるのだろうか?今、命を保有している人にその問を投げかけた所で答えは返ってこない。しかし九死に一生を得た人。もしもそんな人がこの世にいるのなら聞いてみたいものだ。終わりの瞬間何を、どこを、誰を、考えましたか?と。
私は絶望に目の当たりにした。まさか私が問いかけられる側になるとは。私が目にしたその札幌の景色はとても奇っ怪で【異様】という二文字がしっくりきた。雪に滲んだ赤い液体は、瓦礫に埋もれている女性の脳天から流れ出たものだろう。ここにいる、割れたコンクリートに詰まっている子供の腕や足は胴体の2Mほど先に散らかっている。視界に入る【死】以外にも近くで、雪の中に鉄の下に消えた【死】。遠くで悲鳴にかき消された【死】と無惨な終わりがあちらこちらに転がっている。そんな街を川に運悪く入れなかった男は、歩いた。後ろに何万人という数の亡者を連れて。
2034年、12月13日。北海道全土を突如、大地震が襲った。死者1万5034人、行方不明者6214人というなんとも恐ろしくおぞましい出来事だった。
一週間後の12月20日。北海道庁旧本庁舎が歴史上の建築物になり5年。そこには日本一巨大なセーフティエリア アルデバランが佇んでいる。セーフティエリアとは【未来人】が残した手帳を元に建設した対大災害用避難所だ。2025年に【未来人】は未来の技術、人類の進化の為の意識の改革法を記した手帳を置いて消えたのだ。その後、全ての先進国は残っていた遺物を破壊し、セーフティエリアを建設した。来たる大災害の予防として。札幌に構えるアルデバランもそのために建設された。セーフティはドーム型で東西南北に一つずつ巨大な門が外側の接触を拒んでいる。その門は4つ同時に開く事しか出来ない。理由は「外に出る時はすべて解決した時」という意識を被災者に持ってもらうため簡単には出れない仕組みになっている。地震の場合、余震、津波の心配がなくなった場合のみ人々を外に出さないという事だ。富裕層はガーディアンを保有しているため災害時も安心して自宅で過ごすことができる。だが富裕層だけが命も保有している財産も助かる訳では無い。日本に住むほとんどの人々が災害保険に加入しているため、自宅が損壊しても1週間ほどで、建築ロボットが元に戻してくれるのだ。どんな巨大な災害が人類を襲おうとも命は助かり、家、公共の建築物も元に戻る。そんな時代がやってきた…はずだった。
アルデバランの地下3階、薄暗い廊下の先にある集中治療室。そこに…