リラの正体は…
新しい仲間を迎え騒がしかった1日の終わりの頃。新人、リラがミカの部屋で寝静まるころにガクとレンはショウの部屋を訪れた。
「リラのこと、だよね。」
「あぁ。」
適当に座って、とショウに促され、二人とも腰を下ろす。
「あいつの母親は…」
「本当かどうかは分からないけれど、リラのお母様は、昔から秘密裏に皇室のの方々と仲が良かった旅人だったらしい。」
ショウは今朝のことを正確に思い出しながらゆっくりと語り始めた。
リラの母親は自らをシャルム・フィドリー・ローラ・ボヌルーと名乗った。
彼女は10年前まで、ここ、リュミエール王国で暮らしていた。ある偶然がきっかけで皇室の方と交流を持ち始め、リラもたまに城に入ったりしたそうだ。
しかし10年前のあの日、城が襲われたあの日、彼女達は運悪く城に居たそうだ。そこに居たシュヴェルツェ王国の兵に見つかってしまい、リラの魔力を狙って追われた。
なんとか逃げ切ったもののまたいつ追いかけてくるか分からず不安だったため、魔道具を作るのが得意な知人に頼んであの魔力を制御する魔道具を作ってもらい、色んな伝手を使って異界へ移り住んだ。と言うことらしい。そして7歳だったリラの記憶は、襲われた時の衝撃で失われてしまったと。
僕の知るところではシャルムやボヌルーという姓を持った貴族は居ないから、貴族でない事は確かだ。平民階級の人だろうけど、それはこの名前が本物の名前だったらの話だ。そしてきっとこれは偽名。
皇室と接触するには、貴族の中でも上級でなければならない。中級貴族でさえ、皇室の方々と会うことなんて滅多にできないんだ。ましてや平民の、しかも安定した生活を送っていないであろう旅人には到底面会することすらできない。
もし、何か特別な理由があって皇室の方々と本当に親しかったとしても、城に出入りしていたとなると、その噂は少なくとも最上級貴族の耳には入っているはずだ。だけどそれもなかった。
「つまり、リラの母親が名乗ったのは偽名で、本当は上級以上の貴族、あるいは…」
「皇室の……隠し子か、使用人…?」
納得がいかないような顔で言ったガクに、レンも同じような顔でつづけた。
「そうとしか考えられないかな。僕もミナも、同じ考えに至ったよ。」
皇室と、10年前までの貴族の交流について明日調べてくるよ、とショウは明るい声で言った。
「上が何も言ってこないって事は、あっちには事情がわかっているんだろうな。」
そう言ってガクは立ち上がり、部屋を出ようとしたが、次のレンの言葉で立ち止まる。
「大佐が…言っていたんだけど。」
真剣な顔をしたレンの言葉の続きを、2人は一瞬息を止めて待った。
「リラを…絶対に死なせるな。何があってもいい守り抜け。そしてなるべく早く、身を守る術を教えてやってくれ。って。」
大佐はただ異界から来たリラを気遣っているだけかと思っていたけど、とレンは付け足した。
大佐の言葉で、2人はリラがこの国のかなり重要人物だということを確信した。
「俺たちにもバラせないくらい重要ってことか。」
特殊部隊は、リュミエール王国のすべての機関のなかでもかなり信用されている部隊だ。
「これは…変に探ると大変なことになりそうだね。」
いくら信用されている特殊部隊だとしても、下手に国の機密情報に触れてしまったらどんな罰が下されるかわからない。
絶対にあいつを守り抜く、ガクは密かに心の中でそう決心した。彼女と馬が合わない事は目に見えているが、世界のことをまるで知らない可哀想な少女を放っておくほどガクは性格の悪い男ではない。
彼女は本当に何も知らない。急に街に現れては住民を食い尽くそうと暴れまわる恐ろしい猛獣の存在も、無心で人の命を奪う冷酷な人間と対峙するときの背中の凍るような恐怖も。彼女はあまりにも無知すぎる。しっかりと教えなければいけない。
「よし、リラもこのことは今まで知らされていなかったんだから僕たちもあまり深追いはしないでおこう。とりあえず明日は皇室と貴族の交流については調べておくけど。」
公開されてる情報くらいなら知っても問題ないだろう。そろそろ眠たくなってきたと、ショウは伸びをしながら言った。
「俺たちは明日からあいつに基本的な魔法の使い方を教える。」
おやすみ。そう告げて、ガクとレンは今度こそショウの部屋を後にした。
それぞれの部屋に戻った2人と、2人が去った後もしばらく考えごとをしていたショウの3人は、アミが特殊部隊に加わった日の事を思い出していた。
リラとアミ、2人には何か繋がりがあるのかもしれない。
本当はリラの事はだれも何も知らないまま進めていこうと思っていたのに勝手にショウ達はリラの正体に近づいてしまいました…